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JFA専務理事が語るプロジェクトの舞台裏
選手、職員の間で芽生えた課題意識

ボトムアップでスタートした企画

JFAは2月26日に全職員のテレワークを決定した
JFAは2月26日に全職員のテレワークを決定した【Getty Images】

 須原氏の言葉からも分かるように、専務理事の仕事は実に多岐にわたる。海外とのやりとりも頻繁に行われ、ワールドカップ(W杯)予選やキリンチャレンジカップなどのマッチメークで、AFC(アジアサッカー連盟)や各国のサッカー協会との調整も重要な仕事のひとつ。AFCからもたらされる情報から、中国で発生した新型コロナウイルスがアジア全体に与える影響について、須原専務理事は2月初旬の時点で懸念していたという。


 そして日本も感染拡大の危機を迎えることとなり、JFAは2月26日に全職員のテレワークを決定する。


「ところがこれが簡単ではなくて、小中学生のお子さんがいる職員から悲鳴が聞こえてくるわけですよ。子供たちの学校が休みになって、平日に自宅で仕事をしているパパやママがいるとなると、お互いフラストレーションがたまるのは当然ですよね。やがて『世のお父さん、お母さんもつらいに違いない。JFAとして何かやりましょう!』という声が挙がるようになりました。ほぼ同じタイミングで、日本のことを心配している海外組の選手たちから『何かできることはないですか?』という連絡が来るようになったんです」


 テレワークを始めたことで、職員たちの間で芽生えた課題意識。そして海外組の選手から協力の申し出。この2つの動きから、その後「Sports assist you」となるアイデアが職員から田嶋会長と須原専務理事に提案されたのが、3月3日のこと。そこからわずか8日後には、最初の動画がアップされることとなる。

須原専務理事「選手からのアラートも重要」

「テレワークを始めたことで、たくさんの発見があった」と須原専務理事は語る
「テレワークを始めたことで、たくさんの発見があった」と須原専務理事は語る【(C)JFA】

 完全なるボトムアップでスタートした「Sports assist you」は、3月11日以降、ほぼ毎日のように動画がJFATVにアップされている。「一人ひとりのキャラが出ていますよね。香川と岡崎(慎司)の『ダブルシンジ』のノリもいいし、長谷部(誠)の真面目さもいい。動画撮影に慣れている選手もいれば、そうでない選手もいるけど、どちらもいい味を出しています」と須原専務。反響について尋ねると、こんな答えが返ってきた。


「プロモーションする予算もないですから、口コミで広がっていった感じです。子供たちも、現役日本代表のテクニックに『すごいな』って思って、すぐにまねしているようですね。そんなにサッカーに関心がなかった友人からは『JFA、面白いことやっているじゃないか!』というメッセージをいただきました。最近は技術やトレーニングの動画だけでなく、(不要不急の外出をいさめる)シリアスなメッセージも増えてきましたね。総理や都道府県知事とは違った選手からのアラートも、とても重要だと思います」


 以上が、あまり世に出ていない「Sports assist you」誕生のストーリーだ。新型コロナの感染拡大が顕著になって以降、国内のサッカー界はJリーグの迅速な対応にばかりに注目が集まっていたが、実はJFAも発信を続けていたのである。一方で興味深いのが、こうしたアイデアがJFAという組織から、しかもボトムアップで生まれたという事実である。これにはテレワークによる、独特のコミュニケーションが影響していたようだ。


「テレワークを始めたことで、われわれにとってたくさんの発見がありました。もちろん、いい発見だけはなかったです。それでも今までのように、全員がオフィスにいることが前提でのコミュニケーションが、実はすべてではないというのが分かったのは収穫でしたね。部下からも『(テレワークになって)須原さんが捕まるようになった』と言われて、ちょっと反省もしています(苦笑)。実は今日も夕方から、ウェブ飲み会があるんですが、これまでにないコミュニケーションができていると感じますね」


 この「Sports assist you」の試みについては、新型コロナ感染で入院中の田嶋会長も高く評価したことが、退院後のコメントからも明らかになっている。もっとも、国内での感染拡大との戦いは、まだまだこれからといった印象だ。政府による非常事態宣言が出た今、代表選手たちによるメッセージは、さらに重要な役割を担うことになるだろう。当連載ではJFA関係者の証言を集めながら、このプロジェクトの内幕を探りつつ、今後の展開についても随時レポートしていくことにしたい。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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