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塚川孝輝は“二度生き返った”
2年目の松本で恩師の下、いま覚醒の時
レンタル先の岐阜から戻った塚川は、今季のJ2開幕戦でスタメンを勝ち取りボランチとしてフル出場。その成長ぶりは言動にも表われており、今季は主力級の働きが期待できそうだ
レンタル先の岐阜から戻った塚川は、今季のJ2開幕戦でスタメンを勝ち取りボランチとしてフル出場。その成長ぶりは言動にも表われており、今季は主力級の働きが期待できそうだ【(C)J.LEAGUE】

 昨季、松本山雅FCに加入した塚川孝輝は“二度生き返った”。昨夏にレンタル移籍したFC岐阜で、そして今季、新たに就任した恩師・布啓一郎監督の下で。大学卒業後にプロとなって4年。25歳の大型ボランチは、いま覚醒の時を迎えようとしている。

シーズン途中に環境を変えて気付きを得た

 塚川孝輝は、心の置きどころに困っていた。


 松本山雅FCに加入した昨季、J1出場はわずか3試合の33分。前方への推進力、強烈なミドルなどの持ち味をピッチで表現する十分な機会は得られなかった。しかし7月にJ2のFC岐阜にレンタル移籍し、北野誠監督の下で本来のボランチだけでなく、さまざまなポジションを経験。チームはJ3降格の憂き目にあったものの、自身は大きな気付きを得た。


「いい選手は監督が求めるものに対応できるし、チームに必要な選手になれる。自分はそこを勘違いしている部分があって、自分の良さを出しさえすればいいと思っていた」と振り返る。


 だからこそ、昨季の松本でなぜ活躍できなかったのか改めて身に染みた。


「与えられたタスクに対して100%応えられていなかったから(松本)山雅では使ってもらえなかった。その当時は『何でだ?』という思いしかなかったけど、ソリさん(当時の反町康治監督)も自分の足りない部分にもっと目を向けてほしかったんだと思う」


 シーズン途中に環境を変えてそれに気づき、プロ選手としての塚川は生き返った。

原点に立ち返らせてくれた布監督の言葉

 それでもまだ、心の置きどころは定まらなかった。少しためらいながら、今季スタート時の心境を明かす。


「去年の(松本)山雅で通用せず、『自分の選手の価値はここまでなんだな……』と思ってしまっている自分がいた。昔のようにサッカーをすごく楽しめていなかったし、『もっと上に行くんだ』というギラギラ感がなくなっていた。もちろん、頑張ろうとは思っていたけど……」


 やるべきことは明確で、頭では理解できている。だが、どこかスイッチが入らない。根底にあったはずのエネルギーが湧いてこない。


 塚川の悩みに気づいたのが、他ならぬ布啓一郎監督だった。


 そもそもファジアーノ岡山時代に選手とコーチとして、現在よりも密にコミュニケーションを取っていた間柄。キャンプ中の面談で、こう切り出されたのだという。


「お前、サッカー好きか?」


 塚川は、即答できなかった。その様子を見て、布監督はハッパをかけた。


「『昔のお前はサッカーが好きなように見えた。好きじゃないとうまくなれないよな』という原点の話をしてくれた。もう1回、サッカーに対する情熱に火をつけてくれたのが布さんだった」


 自身が「大きな転機だった」と振り返るこのやりとりを経て、フットボーラーとしての塚川は生き返った。そして副キャプテンの1人に任命されたことで、種火のようにくすぶっていた情熱が勢いよく燃え盛った。


 他人にあまり干渉しない性分だったが、今ではトレーニング中から積極的に声を出したり、コミュニケーションを取ったりしている。リーグ開幕の愛媛FC戦でチームが挙げた2ゴールにしても、場面を巻き戻せば、2点とも塚川が間接的に寄与している。

チームの一戦力から「勝たせる存在」へ

 変化を最も感じさせたのは3月18日、ブリオベッカ浦安との練習試合後のやりとりだ。この試合ではブラジル人2トップが良くも悪くも奔放にプレーし、攻撃面で敵に脅威を与えていた反面、ディフェンス面や攻守の切り替えなどの部分で甘さが目立っていた。塚川はそれを指摘し、「基本的な部分はやってもらわないと困る。そもそも松本山雅はチーム全体で戦うスタイルなのに」と口をとがらせた。


 これまでと違っていたのはその後だ。以前の塚川だったら、不平を漏らすだけで終わっていただろう。しかし、「ストレスをためてもどうにもならない。チームとしてコミュニケーションを取って、100%の力を出せるようにしていかないといけない」と前向きな言葉を口にした。


 そして、さらに上のステージを視野に入れている。


「今度はそれをしっかり結果につなげないと、口で言っているだけになってしまう。もっと上にいくためには、そこを変えないと」


 チームの一戦力から、「勝たせる存在」への昇華を見据える塚川。もともと強いプロ志向があったわけでもなく、流通経済大時代まではチームメートとアイコンタクトするという概念すら持っていなかった「感覚派」だ。しかし岡山、松本、岐阜、そして再び松本とクラブ遍歴を重ねてきたいま、恩師の下で覚醒の時を迎えようとしている。


(企画構成:YOJI-GEN)

大枝令

1978年生まれ、東京都出身。早稲田大学文学部卒。長野県内の新聞社で約10年間勤務し、2008〜15年はスポーツ専属担当を務めた。同年に退社してフリーのスポーツライターに転身。松本山雅FCの密着取材をライフワークとしながら、甲信エリアのスポーツを幅広く手がける。クラブ公式有料サイト『松本山雅FCプレミアム』編集長も務める。

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