遠藤と長谷部を足して2で割ったような 町田の佐野海舟が目指すボランチの理想像
セカンドボールに対する予測・判断に秀でた佐野。課題も少なくはないが、このまま順調に経験値を上げていけば、いつか日本を代表するボランチにもなれるはずだ 【(C)J.LEAGUE】
ルーキーイヤーのメーンはSBだった
ましてやボランチは、昨シーズンまでのキャプテンである井上裕大や、大ベテランの李漢宰らが控える層の厚いポジション。経験豊富な先輩選手たちを押しのけ、シーズンの始動から一貫してボランチの主力として起用されてきたことは、ある種の驚きだった。
しかもルーキーイヤーだった昨シーズン、当時の相馬直樹監督が佐野に与えたメーンポジションはサイドバック(SB)だった。ボランチが本職とはいえ、Jリーグの舞台における“ボランチ佐野”は、圧倒的に経験値が不足している。それでも、19歳の若手にチームの心臓部とも言えるポジションを任せることに、ランコ・ポポヴィッチ監督は自信をのぞかせる。
「選手起用に実績は関係ない」
佐野の抜てきは、新指揮官にとって自然の摂理に過ぎない。
遠藤の広い視野と長谷部のキャプテンシー
キックの足の角度、インパクトの強弱、軌道などで相手のクリアボールがこぼれてくる位置を予測・判断し、これを奪い取ることに生きがいを見いだすタイプの選手でもある。
幼少期、チームメートがボールに団子状態で群がっていても、「その中には入らず、こぼれ球を拾って、ボールを運んだり、展開したりしていた」という。まさに“ボランチの申し子”。ボランチをやるためにサッカーを始めたと言っても過言ではない。
育成年代から、自身の成長のために参考にしてきた選手は、長谷部誠や遠藤保仁といった日本を代表する名ボランチ。「テレビで見ていても視野が広いなと思うくらい、周りが見えている」という遠藤をリスペクトし、「ボランチは長谷部さんのようなキャプテンシーも身につけないといけない」との認識から、代表での長谷部の立ち居振る舞いを注視してきた。理想は高く、遠藤と長谷部を足して2で割った選手だ。その境地にまでたどり着くことを夢見ている。
「声で周りを動かすこと」が苦手
ヴァンフォーレ甲府との今シーズン開幕戦でも前半に際どいミドルシュートを放ったように、チャンスがあればゴールを奪うことに色気を隠さない。チームの全体練習後、攻撃陣が取り組む居残りのシュート練習にも自発的に参加。シュート精度を磨く努力も怠ってはいない。その背景には、「点も取れるボランチになれれば、もっと選手としてスケールアップできる」という思いがある。
そして、「周りを動かして守ること」を課題に取り組んでいるのは、不得手な要素を克服しようという意欲の表れでもあるだろう。チームの実戦練習中には、コーチングスタッフや最終ラインの選手から、「海舟、もっと声を出せ!」といった指示がよく飛ぶが、本人も「声で周りを動かすことが苦手」であると自覚している。
「これまでは自分でボールを取ることをやってきたけど、声を出して、周りを動かすことも必要だと思っている」
そうした姿は、まさに長谷部が世界を相手に見せてきたピッチ上での振る舞いそのもの。もちろん一朝一夕で身につくものではないが、目指す意思がない者に、その領域に到達する権利はないのだ。
昨シーズンの実績は、21試合・0得点。仮に今シーズン、初のフル稼働となれば、きっと高い壁にもぶつかるだろう。まずは、J2を代表するようなボランチになれるか。「ずっとここでやってきた」というボランチのポジションで開幕スタメンを勝ち取り、始まった2020年シーズン。プロ2年目にして、早くも佐野は勝負のシーズンに臨んでいる。
(企画構成:YOJI-GEN)
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