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熊谷アンドリューは今季、殻を破れるか
千葉のJ1復帰はこの男に懸かっている
佐藤勇人に「日本代表を狙える」と言わしめた熊谷。その才能は誰もが認めるところだが……
佐藤勇人に「日本代表を狙える」と言わしめた熊谷。その才能は誰もが認めるところだが……【(C)J.LEAGUE】

 誰もがうらやむ才能を持ちながら、「メンタルの弱さ」によって、その能力をこれまではコンスタントに発揮できなかった。その課題は熊谷アンドリュー自身がよく分かっている。今までとは違う自分を見せないと――。そう誓う今季、尹晶煥体制で“繊細なプレーメーカー”というレッテルを剥がすことができるだろうか。

「ハイライン・ハイプレス」の戦術の中で

 熊谷アンドリューは、たまに、とんでもない才能の片鱗(へんりん)を見せつける。


 インサイドキックで30メートルのスルーパスを通すこともできるし、しなやかなファーストタッチで死角から飛び込んでくる相手をひらりとかわすこともできる。フィニッシュそのものに絡む機会は多くはないが、ピッチのどのエリアからでも決定機を作れる技術とセンスもある。


 加えて、近年は守備における個性の輝きも著しい。身体をぶつけるボール奪取と、出足の鋭いインターセプト。一瞬で攻守を逆転させるそれらのプレーはスタンドを大いに盛り上げるし、自陣に向かって長い距離を走る献身性もある。必要な瞬間にイエローカードをためらわない勇気もある。


 攻守両面で、いずれの武器も威力十分。時にチームを勝利に導く決定打となるからこそ、“見ている側”の期待は大きく膨らむ。才能の最大値で勝負するなら、彼は間違いなく国内トップレベルのタレントだ。


 道のりは平たんではなかった。育成年代を過ごした横浜F・マリノスではトップ昇格後のレギュラー争いに加われず、湘南ベルマーレ、ツエーゲン金沢と渡り歩いて2017年に千葉の一員となった。


“繊細なプレーメーカー”というそれまでの印象が大きく変わったのは、その年の夏のことだ。「ハイライン・ハイプレス」という特異な戦術の落としどころを見つけられないチーム状況にあって、特に守備においては多くの場面で“組織”より“個”で対応せざるを得なかった。もっとも、一つのミスが失点に直結する危機感と恐怖心が大きすぎるあまり、逆に吹っ切れたのだろう。1対1の局面でボールを奪い切る守備能力が飛躍的に向上し、彼の評価は急騰した。

日本代表を狙える才能を持ちながら…

 19年シーズン限りでユニホームを脱いだ同じポジションの先輩・佐藤勇人は、当時、真面目な顔でこう言っていた。


「今のアンドリューなら、間違いなく日本代表を狙える」


 しかし熊谷は、あれから3年後の20年も黄色のユニホームを着てフクダ電子アリーナのピッチに立っている。その現状は、彼の成長と苦悩の両方を物語っている。本人が言う。


「特に19年は、個人として、内容も結果も出せない1年でした。監督が代わって、自分のプレーに迷いが生まれ、自分でそれを感じて自信を失ってしまった。言ってしまえば、僕自身の良くないところが全部出てしまったシーズンだった」


 彼はいつも「メンタルの弱さ」を自らのウィークポイントに挙げるが、確かに、性格的な「謙虚さ」に由来するもの足りなさは昨シーズンのプレーに顕著だった。


 1-1で迎えた80分、カウンターのチャンスがあるなら、いるべきポジションを捨てて相手ゴール前に飛び込んでほしい。チームメートがパスを出さなかったら激怒してほしい。そのくらいの存在感を示してほしい。しかし昨シーズンの熊谷は、リスク管理に奔走し、ほとんどの場面で自分のエリアを捨てなかった。


「僕自身、そのことについてずっと考えていました。それが自分の弱さだと思います。やりたいプレーがあるのに、それをやらない。そのうちにどんどん消極的になって、らしさが消えてしまう。やっぱり、それはメンタルの問題ですよね。ただ、そういった自分とずっと向き合ってきて、昨シーズンの1年を通じて自分の中では整理できた。だから、絶対に今シーズンは今までと違う自分を見せないと」

“とんでもない才能”を発揮できれば

 迎えた今シーズン。FC琉球との開幕戦。尹晶煥新体制の始まりとなる大事な一戦で、腕章を巻いた熊谷はフル出場で勝利に貢献した。残り30分から5バックに変更して1点のリードを守り抜く厳しい戦いだったが、それは尹監督が率いる新チームの“らしさ”であり、理想形を目指す上で大切な第一歩だった。


「戦術的には昨シーズンまでとは真逆。勝つことを最優先とするサッカーをするので、まずはそこで求められる仕事をきっちりとやって、その上で、しっかりと攻撃の面でも貢献できるようにならないと。ただ、手応えは感じています。ああいう試合を勝ち切ることは、今までのチームにも、自分自身にも最も足りなかったことだから。今は、内容よりもとにかく勝ちたい。それを結果で示すことが、今の自分たちに最も必要なこと」


 もちろん、ただ守り抜くだけでJ1自動昇格の“2枠”を勝ちとれるほど甘くないことは、過去の経験から十分に理解している。この過酷なリーグを最終的に勝ち抜くために必要なのは、チームとしての“らしさ”に上積みされる個人としての“らしさ”だ。


 そのとき、腕章を巻いてピッチの中央に立つ自身の“とんでもない才能”を、自由に、堂々と発揮するキャプテンになれるか。やがて来る勝負どころで昨シーズンまでとはスケールが違う熊谷アンドリューを見ることができたら、千葉は一歩、大きな成果に近づくことができるに違いない。


(企画構成:YOJI-GEN)

細江克弥

1979年生まれ、神奈川県藤沢市出身。『ワールドサッカーキング』『Jリーグサッカーキング』『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て2009年に独立。サッカーを中心にスポーツ全般にまつわる執筆、アスリートへのインタビュー、編集&企画構成などを手がける。

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