Bリーグ・再開や試合中止の裏にあった思い 大河チェアマンが語る「挑戦と葛藤」

大島和人

無観客でリーグ戦を再開した背景に、こういう時だからこそバスケで日本を元気にすることにチャレンジする意味もあると語った 【スポーツナビ】

 Bリーグは新型コロナウイルスの感染拡大にともない、2月26日にリーグ戦の延期と日程の後ろ倒しを決定した。3月10日にはB1チャンピオンシップなどポストシーズンの日程変更、11日には無観客での試合実施を発表し、14日からリーグ戦の再開に踏み切った。

 しかしB1は14日、15日と1試合ずつが中止となっている。すでに無観客で複数試合を行っている大相撲やプロ野球と違い、選手やコーチから不安を訴えるコメントも相次いでいた。そのような状況下で17日にBリーグの臨時実行委員会が開催され、3月20日から4月1日までの計95試合を中止する方針転換が決まった。

 新型コロナウイルスは東アジアから全世界に拡大し、他競技の主要リーグにも影響を及ぼしている。Bリーグもレギュラーシーズン再開やポストシーズンに向けて用意はしつつ、さらなる日程短縮や中止も含めた検討を進める必要もあるだろう。

 クラブ経営への悪影響は避けられず、日程変更に伴ってクラブごとに損得も生まれる――。Bリーグとして苦渋の決断を避けられない、極めてシビアな状況だ。大河正明チェアマンは「荒海」の中でどう針路を見て、かじを切ろうとしているのか。新型コロナウイルスが及ぼした影響と意思決定、今後の選択肢に関する緊急インタビューに応じてもらった。

NBAが中止になった影響が大きい

――Bリーグのレギュラーシーズンが、無観客での試合実施から中断となった経緯を振り返っていただけますか?

 今だからこそバスケで日本を元気にすることにチャレンジすべく、一度無観客での試合再開を決めて進めてまいりましたが、1節を実施してやはり一定期間全試合を中止するという結論に至りました。先週末、全クラブで話し合い、ルールを設けた中で無観客での試合を行ったが、ルールだけではなく、現場での温度感などを加味するなど、想定が出来ていなかったこともあった。そして、先週末のB1で2試合の中止が起こりました。想定よりも選手、コーチの心理的不安もありました。

 一つはNBAが中止になった影響が大きいと感じます。そういう中で選手やコーチにも納得感がある措置を考えていかないといけません。なのでいったんリーグを中断しないといけないなと思いました。ただポストシーズンも含めて全面的に中止するのでなく、中断です。無観客での試合実施か、お客さんに来ていただいてかは不透明ですが、4月4日から再開ができないかどうかを模索していく考えを臨時実行委員会で(各クラブの経営者に)伝えました。

――選手との意見交換もあったと聞きました。

 16日に選手会のメンバーたちと話し合いをしました。Bリーグのオフィスに来た3人に加えて、画面越しに参加した選手も4、5人いる中で、1時間ほどの意見交換ができました。それまではクラブに選手がどう感じているか代弁してもらっている形でした。

 NBAはGリーグも含めて即シーズンを止めました。サッカーの5大リーグもすべて止めになっています。日本の野球とサッカーも公式戦はまだやっていない。となるとBリーグだけが新しく無観客でやっている印象が伝わります。閉塞感があるときにみんなが理解してやれれば、前向きなチャレンジになると思いましたが、現実はなかなか難しかった。

「37.5度以上が2日続いたら隔離する」

普段は約5000人のブースターで埋まる船橋アリーナも普段と違う雰囲気に。2日目の試合は審判の発熱により延期となった 【(C)B.LEAGUE】

――選手と直接話をした空気感はいかがでしたか?

 一丸となって、「やろう」と言ったら日本人の選手はプレーをしてくれるかもしれないとは思いました。ただ新型コロナウイルスについて理解のばらつきがありますし、外国籍選手の中でNBAを経験した選手の声も大きい。

――14日にまず中止の試合が出ました。

 14日の川崎(ブレイブサンダース)対(レバンガ)北海道は当日の13時頃に「トラッソリーニ選手は37度少しの熱があって、せきもしている。37.5度は超えていないものの念のためエントリーから外して、他のメンバーでやろうと両クラブで合意が取れている」と連絡がありました。

 しかし16時半頃に会場入りした時点で他に2選手の37度超えが出ました。私はサンロッカーズ渋谷(の試合会場)にいましたが、相手方も含めて緊張感が高まりました。「とてもではないけれど選手がフルにファイトできる状況ではない」という報告を受けました。自分が決断をするしかなかったので、本来のレギュレーションを少し逸脱したのだけど、試合を中止にしました。

――15日の千葉ジェッツ対宇都宮ブレックスも含めて中止決定を下したのは大河チェアマンということですね?

 最終決定は私です。千葉の試合はBリーグのオフィスにいて電話会議をしました。

――選手の安全を維持するための規定はどうなっていましたか?

 飲み物もマネージャーがひとりひとりの飲み物を分けて渡しましたし、タオルも分ける規定になっています。ロッカールームに長居をしない、あまり大きな声を出さないといった指針も出しました。ハドルはもう少しオープンな場所でやってもらう……といった内容も含めて細かく書いたものはクラブに送っていました。

 厚生労働省が「37.5度以上が4日続いたら検査を受ける」基準を設定しています。Bリーグは「37.5度以上が2日続いたら隔離してください」という運用で合意していました。

 しかしいざ発熱した選手、関係者が出てしまうと机上で作ったルールが通用しなくなります。例えば審判が37.5度以上出ている。朝は大丈夫だったけれど、昼に少し超えた。それで選手の気持ちに大きく影響してしまいました。チームによって温度差はありますが、そうなってしまうと試合は難しい。本当はルール通りいかせなければいけなかったのかもしれませんが、選手、ファンの皆さんが納得するかどうかは別の話です。どういう場合だと試合中止するのか等、ルールを整理し選手やチームスタッフが安心して試合の臨める環境の整備を中止の間に行う。選手の体のみならず心理的な安全確保、またファンの方にも安心して試合をお楽しみいただけるよう整備したいと思います。

――自然災害も含めてあるレベルの危機は想定していたと思いますが、そこはいかがですか?

 これほどの事態を予想していたわけではありません。ただ1月後半頃に日本でも感染が広がり始めた頃、CBA(中国プロバスケットボール協会)は既にリーグ戦を止めていました。「日本も中止、中断になったらインパクトは大きいな」と感じていました。

 東日本大震災の際と異なり全国的に開催が難しいことは、最大値のリスクです。リスクへの対応でとにかくやらなければいけないのは、6月の決算期まで資金繰りを持たせることです。それは今このタイミングの懸念事項でもあります。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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