【前編】辻直人×小塚崇彦(フィギュア) 一流選手が感じる「ゾーン」とは
東京五輪を目指す辻選手(写真左)と先輩オリンピアンの小塚さんが、競技を超えてアスリートとして語り合った 【写真:三浦雄司】
今シーズンの辻選手
辻 ありがとうございます。
小塚 今、ご自身の調子はどうですか?
辻 シーズン前半は手術明けだったんです。そのせいで感覚を戻すのに必死だったんですけど、今年に入ってようやく自分らしくプレーできています。ただ、最近は試合が立て込んでいて。普段は週に2試合なんですけど、週3試合が2週続けてあったり。アウェーだったら移動もあったりで、疲労感はありますね。
小塚 オフでも、アクティブというよりは家に帰ってゆっくりする感じですか?
辻 そうです。ただ、オフで家にいても、シーズン中は完全にスイッチを切れるわけではないんですよね。次の対戦相手のことを考えると、どうしても緊張感が出てきます。それに今は代表合宿があって、また違った緊張感や疲労感があります。
小塚 代表として活動するときの緊張感は、普段と違った雰囲気からくるものですか?
辻 はい。自分のチームで戦うのとは、違う路線で戦っている感覚なので。新鮮さもあるんですけど、緊張感は増しますね。
小塚 普段から一緒にコミュニケーションをとっている仲間とは違う連携が必要だったり、もちろんコーチも違うでしょうし。
辻 代表候補合宿に参加している選手は仲のいい選手が多いので、そういったところではリラックスできます。でも、ヘッドコーチが違うと、求められているプレーをしないといけないですし、そこで判断されて代表に選ばれたり選ばれなかったりするので。
小塚 代表候補に入れるか入れないかっていう競争がね。
辻 そうなんです。代表の選考では、次の合宿に行けるメンバーは何も言われないんですけど、落とされるメンバーは合宿の最終日の練習後に別室に呼ばれるんです。
小塚 うおお、怖いですね(笑)。
辻 だから僕は、逃げるようにその場を出てるんです。名前を呼ばれないように。アイドルのオーディションみたいな感じなんですけど(笑)。
手術明けだった今シーズン。2020年に入り調子も上がってきた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
辻 いやいや、スケートの大会が一週間で2回ほどすごくはないです(笑)。
小塚 前半はケガから戻ってきて、ちょっとずつ自分の体を慣らしていって……焦りなどありましたか?
辻 もちろんありました。自分がうまくいってないのにチームは好調で「僕の存在価値ってなんだ?」って自分で考えてしまったり、周りの評価を気にしてしまったり。
小塚 ネットで自分のことを検索したりします?
辻 極力しないんですけど、たまにしてしまいます。
小塚 じゃあ、辻選手がエゴサーチしてるって言っておけば、いいことばっかり書いてもらえるかも。
辻 それだけで気分が上がります。
小塚 ある経営者が『2割、6割、2割』って言ってたんです。肯定する人が2割、否定する人が2割。真ん中の6割は全く興味のない人。興味のない人を、いかに肯定派に持っていくかが大事だと。それを聞いてから、何か言われたとしても「2割はどうしたって否定するんだな」と考えるようにしました。
辻 すごい。気持ちが楽になりました。