連載:決戦! 東京マラソン〜五輪代表を懸けたトップランナーの軌跡〜

設楽悠太、本気で世界を見据える男の決断 「2時間5分台なら五輪辞退」の真相とは?

酒井政人
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事前のメディア公開で、「次の東京マラソンが国内最後のレース」「2時間5分台なら東京五輪は辞退」と話した設楽。その真意を紐解く 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 昨年のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)では、宣言通りの大逃げを図るも後半に失速して14位に終わった設楽悠太(Honda)。あの世紀の一戦から約4カ月。設楽は双子の兄・啓太とともに宮崎県でトレーニングを行っていた。「次の東京マラソンが国内最後のレース」「2時間5分台なら東京五輪は辞退」。そこで発せられた設楽の言葉の数々は驚きを持って迎えられたが、その真相は本気で世界を見据えていることに他ならない。設楽の決断に迫った。

兄・啓太と宮崎県でトレーニング

 日本中が沸いた、昨年9月15日のMGC。「最後まで計算して走るのではなく、前半からどんどん攻めていきたい。MGCをぶっ壊します」という言葉通り、設楽がひとりで切り込んだ。序盤で飛び出すと、独走で中間点を1時間3分27秒で通過する。しかし、後半はペースダウン。前日本記録保持者は14位に沈んだ。

 あの日から約4カ月。2020年1月下旬、設楽は宮崎県にいた。双子の兄・啓太が所属する日立物流の合宿に参加して、東京マラソンに向けたトレーニングを行うことが目的だ。報道陣に向けた公開練習のあった1月23日は約35キロの距離走を実施。練習後は多くのメディアに囲まれた。

「今日の腕時計をしていなかったのでペースは分かりませんが、距離を踏むという意識で練習しました。移動が大変だったので疲れはありますが、いい感じに消化できたと思います」

 いつものように設楽はひょうひょうと質問に答えていく。元日のニューイヤー駅伝は最長4区で区間3位。1月19日の都道府県駅伝も7区で区間3位。MGC後は、以前のような爆発力が発揮できていない。しかし、設楽は「(ニューイヤー駅伝、都道府県駅伝ともに)まさかあれだけ走れるとは思っていなかった。練習が全然できていなかったので、自分でもびっくりしています」と話す。

 練習ができていなかった理由を尋ねると、「何だろう……。気持ちの問題ですかね」という。MGCの結果にショックを受けたのかと思いきや、そうではない。「気持ちの上で、MGC後は盛り上がってくるものがなかったんです。もともと練習はやらない方なので(笑)」と言って報道陣を笑わせた。兄・啓太とトレーニングを行うことで、ようやく“真剣モード”に入ったということか。

突然の“告白”と“爆弾発言”

練習を公開した男子マラソンの設楽悠太(右)。左は双子の兄・啓太 【写真は共同】

 現在の感覚を大切にする設楽にとって、過去のレースはさほど意味を持たない、MGCの苦い思い出も、すでに“昔”の出来事だ。

「(MGCのことは)あまり思い出さないです。僕にできることはすべてやったので。レース後は後輩たちと飲みに行きました。その後は、とにかく休みたくて。あと、マラソンは夏にやるものではないですね。僕よりも暑さに強い選手はたくさんいると思うので、冬のマラソンで勝負していきたい。正直、(夏に行われる)東京五輪はどうでもいいと思っています」
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著者プロフィール

1977年愛知県生まれ。東農大1年時に箱根駅伝10区に出場。陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』やビジネス媒体など様々なメディアで執筆中。『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)など著書多数。

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