連載:ドライブラインの正体〜最新鋭の野球に迫る〜

ドライブラインから考える野球界の未来 日本に進出するとして、必要なものは?

丹羽政善

ドライブラインをよく言い表す言葉

マーリンズ在籍時のストレイリーが発した言葉はドライブラインをよく言い表している 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

「もし自分が、カイル(・ボディ)のところへ行って、『95マイル(約153キロ)を投げられるようにしてくれ』と言ったら、彼は言うだろう。『あそこにドアがある。じゃあね』って」

 第2回でも少し触れたが、2017年9月、ニューヨーク・タイムズ紙がドライブラインを特集している。そこには当時、同施設でトレーニングをしていたマーリンズのダン・ストレイリー(現・韓国ロッテ)のそんなコメントが載っていた。

 球を速くすることに特化した施設――といった程度の知識だったので、そのときは真意を図りかねた。

 しかし今、改めて読むと、ストレイリーの言葉は、ドライブラインをよく言い表していると感心する。

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 トレバー・バウアー(レッズ)も言っている。

「(球速が速くなるかどうかは)あくまでも結果。目的ではない」

 かといってアマチュアが球速アップを目指すことには「ドラフトなどでは、球速が評価基準の一つになるから」と一定の理解も示す。

「でも、プロに入ったら、もっと大事なことがある」

 球速が過大評価され、スピードガンが必要悪とも言われるゆえんだが、「97マイル(約156キロ)を投げられるのに、力の伝え方を間違っていて、92マイル(約148キロ)しか投げられない投手がいるとしたら、それは『ちょっともったいないな』って思う」ともバウアーは言う。

「そんな選手には、体の使い方をアドバイスすることはあるけどね」

入り口を突き詰めると……

クレビンジャー(写真左)はトミー・ジョン手術後、球速が下がっていたが、バウアー(同右)の助言もあってスピードを取り戻した 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 彼のインディアンス時代の同僚にマイク・クレビンジャーという投手がいる。

 2011年にエンゼルスにドラフトされた当時は、98マイル(約158キロ)の4シームを投げていた。しかし、12年にトミー・ジョン手術を受けると、復帰後の平均球速は93-94マイルに落ちた。それでも14年にインディアンスにトレードされ、16年にメジャーデビューすると、翌年から昨季まで、3年連続で二ケタ勝利を挙げている。

 ただ、その彼を間近で見ていたバウアーには、クレビンジャーが小さくまとまっているようにも映り、もどかしかった。

「ちょっと体の使い方を変えるだけで、97-98マイルは出るのに、ポテンシャルを生かしきれていなかった」

 クレビンジャーはバウアーのトレーニングをまねて、その理論を聞きまくった。しかし、球速に関する話になると、「今のままでアウトが取れているから」と、興味を持たなかったという。
 2017-18年、4シームの平均球速は93-94マイル。ところが昨年は、95-97マイルに球速がアップ。平均球速が97マイルを超える試合もあった。

 実は春先、バウアーがちょっとした助言を送っていた。いや、具体的にこうした方がいい、とアドバイスしたわけではないが、下半身をどう使うか、という話をするうちにクレビンジャーは自分でなにかに気付いたよう。
 
 バウアーが伝えたのは効率だが、ドライブラインの入り口も突き詰めれば、まさにそこではないか。どう効率的に力をボールに伝えるか。また、いかに体を効率的に使うか。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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