連載:日本スポーツ界の若き至宝

八村塁がNBAで成し遂げるべき偉業は数字よりも「10年キャリアを刻むこと」

吉田治良
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現地時間10月23日のマブズ戦でNBA公式戦デビューを飾ると、いきなり14得点・10リバウンドのダブルダブルを達成。そこから4戦連続で2ケタ得点を挙げるなど、申し分のないスタートを切った 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 今年6月のNBAドラフトで、日本人として初めて1巡目、それも9位という高順位で指名を受けた八村塁。入団したワシントン・ウィザーズでは開幕からスターターに定着し、期待以上のルーキーシーズンを送っている。では、この日本バスケ界期待の超新星は、NBAでどこまでのレベルに到達できるのか。元プロバスケ選手で解説者の佐々木クリス氏が、「NBAで八村選手が成し遂げるべきこと」を教えてくれた。

NBAへと導いたのは「純粋なパッション」

──佐々木さんが初めて八村選手のプレーを見たのはいつですか?

 ウインターカップ3連覇(2013〜15年)を達成した明成高時代です。本当の意味で「これはNBAを意識できるな」と思ったのは、彼が得点王に輝いた14年のU-17世界選手権ですね。

──衝撃的でしたか?

 ええ。あの身長(203センチ)と手の長さがありながら、動きがすごくしなやかでしたから。水が川を流れるようによどみなくプレーしていましたし、何より自分の意思のままに身体を操れることが素晴らしかった。当時から長距離のショットも難なく決めていて、得点感覚に関しては相当なレベルの高さを感じましたね。

──今までの日本にはいなかったタイプですよね?

 確実に規格外。今年、日本人で初めてNBAのドラフトで1巡目指名された事実がすべてを物語っているでしょう。バスケットボールに長く携わってきた人間としては、自分が生きている間にこういう選手が日本に現れるとは思っていなかったので、本当にコロンブスの新大陸発見か、人類初の月面着陸か、それくらいのインパクトがありました。

──それはすごい……。

 これから八村選手が起こすであろうパラダイムシフト(その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化すること)を想像すれば、なおさらです。そこに新大陸があることをコロンブスが証明したからこそ、スペインやポルトガル、オランダといった国が、次々と航海に乗り出したわけです。同じようなことが、八村選手の出現によって日本のバスケ界でも起こるかもしれません。

──1巡目指名に結びついた一番の要因とは?

 アメリカに2メートルを超える選手も、彼よりジャンプ力のある選手もたくさんいる。その中で1巡目指名を受けたというのは、単純にバスケを愛する気持ちが誰よりも強いからだと、個人的には思っています。もちろん才能も必要ですが、そこにあぐらをかいて持て余す人もごまんといる中で、彼はたゆまぬ努力で才能を磨き上げていった。それは中学時代の恩師が「お前ならNBAに行けるぞ」と背中を押してくれたり、高校時代の監督が規律正しい生活を身に付けさせてくれたからでもありますが、何よりもバスケに対する純粋なパッションが、彼をNBAに導いたんだと思います。
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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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