テニスプレーヤーに重要な“遊び感覚” 2人のコーチが語る、望月慎太郎の成長
全仏ジュニア4強、そしてウィンブルドンでの優勝
ウィンブルドン・ジュニア部門のシングルスで、日本男子初の優勝を飾った望月慎太郎。米国のIMGアカデミーで、テニスに必要な感覚やプレースタイルに磨きをかけている 【写真:アフロ】
会見の席でそう水を向けられると、彼は「快挙って言われても……」と困ったように首をかしげ、視線を宙に漂わせ言葉を探した後に、こう言った。
「ウィンブルドンというよりも、大会をまず優勝できたことが、自分にとっては成長だと思います」
日本男子として初の、ウィンブルドン・ジュニア部門制覇。ただ当の望月は、それをあくまで“快挙”ではなく、目指す地点へ至るプロセスだと捉えていた。
本人は「快挙」という言葉に違和感を禁じえない様子だが、今回の望月の優勝は、彼がまだ16歳と1カ月であることを加味した時、さらなる価値を帯びてくる。
ジュニア部門に出場可能なのは、18歳以下の選手。この年代の少年たちの成長速度を考慮すれば、16歳の日本人がフィジカル面でいかに大きなハンデを背負っていたかは想像に難くない。しかも望月は、今回のウィンブルドンがジュニアグランドスラム2大会目で、芝のコートでプレーするのは、ほぼ初めての経験だった。ちなみに、初出場のグランドスラムはレッドクレー(赤土)で行われる今年6月の全仏オープンで、ベスト4に勝ち上がっている。
フィジカルコーチを驚かせた「他競技での動き」
グローブを手に、言葉を交わす望月(左)と中村氏 【写真提供:中村豊】
中村は2005年からの5年間、IMGアカデミーでフィジカルトレーナーとして活躍。その後、オーストラリアテニス協会やマリア・シャラポワ(ロシア)のパーソナルトレーナーを経て、18年からIMGアカデミーのフィジカルコンディショニング部門ヘッドコーチに就任した。加えて望月のことは、盛田正明テニスファンドを通じ、3年前から成長過程を近くで見ている。
中村が望月を指導しはじめた頃、真っ先に驚かされたのが、「テニス以外の球技をやった時の動き」だったという。野球やアメリカンフットボールでキャッチボールをしていても、球際に強く捕球能力が高い。しかも捕球しそこねた時には、尋常でないほど悔しがる。動体視力と“アイ&ハンドコーディネーション(視覚と手の連動性)”、そしてボールへの執着心や集中力に、球技への高い適性が発現していた。
野球、サッカー、アメフト……トレーニングでは、テニス以外のさまざまな競技を取り入れている 【写真提供:中村豊】
そして何より重要なのは、それら種々の競技からさまざまな刺激を受けることで、“遊び感覚”を養うことにあるという。中村いわく、「“遊び感覚”とは、別の言い方をすれば、“適応能力”」。そしてそれこそが、テニスプレーヤーにとって、もっとも重要な資質の一つだ。
「テニスは毎日、必ず違う環境でのプレーを強いられます」と中村は言う。会場やコートが変われば、ボールのバウンドや速度も異なってくる。試合開始時間も読めなければ、天候もまちまちだ。さらには、どんなに理想的なフォームを固めても、望む打点で打てることなど1試合の中で数えるほどしかない。だからこそ、多様性に富んだ体の使い方や感性……すなわち「遊び感覚」が求められ、その点において望月は秀でているという。