期待以上の攻防に酔いしれたWBSS決勝
伊藤雅雪が感じた、井上の「体重の壁」

終了後、井上は「これがボクシングです」

WBSSバンタム級初代チャンピオンに輝き、アリトロフィーを掲げる井上
WBSSバンタム級初代チャンピオンに輝き、アリトロフィーを掲げる井上【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 11月7日、さいたまスーパーアリーナで行われたWBSS(ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ)バンタム級決勝は、WBA・IBF王者の井上尚弥(大橋)がWBAスーパー王者で世界5階級制覇のノニト・ドネア(フィリピン)に3-0(117対109、116対111、114対113)の判定勝ち。昨年10月の初戦から1年に及ぶトーナメントを制し、WBSS優勝者に贈られるアリトロフィーを日本人ボクサーとして初めて手にした。

「これがボクシングです」


 試合後のリング上、そしてプレスルーム内にセットされた記者会見場で、井上は同じ言葉を口にした。「皆さんの期待通りの試合にはならなかったと思いますけど」と前置きをつけて――。


 戦前の予想は井上の圧勝ばかりに集まった。何人かの現役・元ボクサー、記者に聞いて回っても即座に「井上の序盤KO」と答えが返ってきた。


 横浜で元WBAスーパー王者ファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)を右一撃のもと、わずか70秒で沈めたのを皮切りに、準決勝はイギリス・グラスゴーで無敗のIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2ラウンドに鮮やかな左カウンターで倒すと、続けざまにボディで2度倒してフィニッシュ。圧巻の勝ちっぷりでセンセーションを巻き起こした。


 井上は「自分に求められていることは重々承知」と盛り上がる期待を一身に背負って立つ決意を示し、偉大な足跡を残してきた36歳に堂々と「世代交代」を宣言。ドネアも「イノウエの前に立ちはだかる壁になる」と受けて立った。

百戦錬磨のドネアに、井上もあらゆる手立てで対抗

百戦錬磨のレジェンド・ドネアに対して、井上もあらゆる手立てで攻めていった
百戦錬磨のレジェンド・ドネアに対して、井上もあらゆる手立てで攻めていった【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 もちろん一瞬で決着がつくKOはボクシングの華だが、互いの持てる力を尽くした果てしない攻防もまたボクシングの醍醐味だ。「もうピークは越えた」と思われていたドネアだが、百戦錬磨のキャリアを見せつけた。まだ試合の序盤・2ラウンドに右目の上をカットし、「ドネアがふたりに見えた。最終ラウンドまでずっと目がぼやけた状態だった」というハンデを負いながら、井上もあらゆる手立てを繰り出して渡り合った。


 序盤はドネアの“代名詞”左フックで引導を渡そうとするかのように、井上はたびたびこの左をカウンターで狙った。2ラウンド、ドネアを一瞬よろめかしたが、逆に左フックのカウンターで傷を負う。5ラウンド終盤、今度は井上の右カウンターがさく裂。腰を落としたドネアに井上がラッシュをかけた。


 9ラウンド、ジャブの打ち終わりを襲ったドネアの右で井上が大きくよろめき、猛攻を許す。このピンチをしのぐと、10ラウンドには攻め返して挽回。続く11ラウンド、右アッパーから返した井上の左フックがボディをえぐる。ドネアはくるりと横を向くと、よろよろとコーナーに歩き、こらえきれずにそのまましゃがみ込む。ついにエンディングかと思われたが、試合はまだ終わらない。


 カウント9で立ち上がったドネアは、厳しく詰め寄ってくる井上に果敢に左フックを狙って、踏みとどまる。ダメージは深い。棄権をしてもおかしくないかと思われたが、それでもドネアはすくっとコーナーから進み出る。


 迎えた最終12回、ドネアが攻め、井上が迎え撃ち、最後までせめぎ合いを繰り広げる。試合終了のゴングが鳴り響き、リング中央で抱き合った両雄に惜しみない大歓声と拍手が降り注がれた。


 次代を担う若き俊英と一時代を築き上げたレジェンドの交錯に2万を超える観衆は酔いしれ、期待以上の高度な攻防に「これがボクシング」と感じ入ったに違いない。

船橋真二郎

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社)、『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)に執筆。『ゴング格闘技』(イースト・プレス)でコラム連載。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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