連載:井上尚弥、さらなる高みへ

ドネアに“操られているような感覚” スパーリング経験者が語る強さの秘密

船橋真二郎
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井上の衝撃KO劇に「やってらんねえよ!」

井上(写真左)の強烈なKO劇に、岩佐は「やってらんねえよ!」とこぼしたことがある 【写真:ロイター/アフロ】

「僕の予想ですか? 井上君はことごとく予想を上回ってくるんで……。正直、分からないですね。今回は苦戦するんじゃないか、今回の相手は老かいだと言われながら、ことごとくやっつけているわけじゃないですか。井上君は相手を読んでスキを突いていくのがとてつもなくうまいですし、前半KOで終わるのかなっていうのが予想というか……。『また予想を超えてくるんでしょ!』みたいな感じです(笑)」

 11月7日、さいたまスーパーアリーナで行われるWBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)バンタム級トーナメント決勝戦。WBA・IBF同級王者の井上尚弥(大橋・18勝16KO無敗/26歳)が、元世界5階級制覇王者でWBA同級スーパー王者のノニト・ドネア(フィリピン・40勝26KO5敗/36歳)を迎える一戦について、半ばあきれたような口調で話すのは、元IBF世界スーパーバンタム級王者で現在はIBF同級1位にランクされる岩佐亮佑(セレス・26勝16KO3敗/29歳)だ。

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 昨年10月、横浜アリーナで開催されたWBSS初戦で、井上が元WBA同級スーパー王者のファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)をわずか70秒、一撃で沈めた衝撃KOを会場で観戦。その数日後、岩佐は自身の王座陥落からの復帰会見で「『やってらんねえよ!』って思いました」と苦笑まじりに率直な感想を口にしていた。

「自分の中で再起を決めて、気持ちが上を向いた状態で井上君の試合を見たから、まだ良かったです。気持ちが固まっていない状態であれを見たら、僕は今、ボクシングはやってません(笑)。やってらんねえ、誰が勝てるんだよって」

 井上がライトフライ級から一気にスーパーフライ級へと2階級上げて、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)に挑戦する(2014年12月)前、スパーリングをしたことがある。

「これまでの相手とは違いました。スピード、パワーもそうだし、ディフェンスもそうなんですけど、(戦力値を表すチャートの)五角形があるじゃないですか。あれが全部、ひと回りもふた回りもデカい。僕の感覚ですけど、そんなイメージでしたね」

 高校ボクシングの名門・習志野高時代に3冠を果たし、世代トップを走ったサウスポー。プロでもバンタム級で日本、東洋太平洋の2冠を制し、世界を視野に捉えた頃だった。アマチュア、プロを通じて、さまざまなトップ選手と戦ってきた岩佐の豊富な経験のさらに上を井上はいったことになる。

覆されたドネアの「攻撃的なイメージ」

ドネア(写真右)とスパーリングを行った際、岩佐はその「攻撃的なイメージ」を覆された 【Getty Images】

 2017年8月に来日し、横浜光ジムを拠点に練習していたドネアとも、岩佐はスパーリングで手合わせしている。長らく軽量級のトップに君臨した世界的ボクサーから感じたのは、言ってみれば、底知れない力だった。
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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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