期待以上の攻防に酔いしれたWBSS決勝
伊藤雅雪が感じた、井上の「体重の壁」

ドネアから感じた体格のアドバンテージ

伊藤はドネアの体格のアドバンテージを感じ、同時に井上の「体重の壁」も初めて感じたという
伊藤はドネアの体格のアドバンテージを感じ、同時に井上の「体重の壁」も初めて感じたという【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 リングサイドで見守った前WBO世界スーパーフェザー級王者の伊藤雅雪(横浜光)の第一声も「めちゃくちゃ、いい試合でしたね」というもの。


 伊藤もまた「確率が高いのは、井上君の3ラウンド以内のKO」と予想していたが、「しっかり仕上げてきたし、この試合に懸けてきた気持ちを感じた」というドネアの年齢にアジャストしたボクシングに目を見張った。

「今までの反射神経(によるディフェンス)だけで、井上君と感覚勝負をやったら難しかったのが、ガードしながら一発のカウンターを狙って。あれは今の36歳っていう年齢に順応したからこそのドネアだと感じましたし、あれだけのキャリアを重ねての5階級制覇は、ダテじゃないなと思いました」


 ドネアには体格のアドバンテージも感じた。


「リングに上がったのを見たら、ひと回り腕も太くて、大きかったですね。予想通り、ドネアは出ましたけど、重厚感があって、ガードして、プレスをかけて、前には出やすかったんじゃないかなと思います。逆に井上君には、初めて体重の壁を感じました。ドネアも下の階級から上げてきた選手ですけど、やっぱり井上君は比べると小っちゃい。どの階級まで行けるかって言われてきましたけど、もしかしたらスーパーバンタム級ぐらいで、というのは感じちゃいました」


 それでもアクシデントを抱えながらも勝ちきってしまう井上の地力には「さすがだな」と脱帽した。


 拳や腰など、試合途中のアクシデントを含め、故障を抱えながらも勝ちきる対応力の高さは、すでにスーパーフライ級時代に証明済みだが、流血が目に入り、距離感に大きく狂いが生じる中での戦いは初めて。


「それも、このレベルでやっちゃうわけですから、やっぱりハンパじゃないですね」

井上の海外進出は「日本人にとっての突破口」

伊藤は現役ボクサーとして「悔しい」感情もあるが、「日本人にとっての突破口になるし、僕にとってもチャンス」と刺激を受けていた
伊藤は現役ボクサーとして「悔しい」感情もあるが、「日本人にとっての突破口になるし、僕にとってもチャンス」と刺激を受けていた【船橋真二郎】

 試合前、伊藤は「井上君の倒し方が問われるカード」と海外からの見方を含めて、この一戦を位置づけ、もし倒せなかったら評価が落ちる可能性もあると話していたが。


「(現役最強の呼び声高い)ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)と井上はどうかとか、本当のアメリカのど真ん中でやろうと思ったら、欲を言えば倒さないといけなかったと思いますけど。でも、これは絶対にアメリカでも受ける試合でしたし、井上君がスペシャルな選手であるというリスペクトは変わらないと思います。これから誰と、どんな試合をやっていくんだろうっていうのは、そこは一ファンとして(笑)」


 試合後には、伊藤も契約を結んでいるアメリカ最大手プロモーション・トップランクの社長、トッド・デュボフ氏が井上、大橋秀行・大橋ジム会長、父の井上真吾トレーナーと会見。正式に複数年契約を締結したことを発表し、次の2戦はアメリカで計画していることを明かした。


 もちろん現役ボクサーとして「同じ日本人がWBSSっていう世界が注目するトーナメントで優勝したことは、ただただ悔しいですし、すごく刺激になります」という伊藤は、再びアメリカでの活躍を目指して、決意を新たにした。


「井上君が海外のスター選手になっていってくれることは、日本人にとっての突破口になるし、僕にとってもチャンスなんで。自分もしっかりと世界にアピールする試合をしていきたいと余計に思わされました」

船橋真二郎

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社)、『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)に執筆。『ゴング格闘技』(イースト・プレス)でコラム連載。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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