日本代表を輝かせた“世界最先端の戦術” チーム一丸となって生み出したトライ
世界を魅了した日本代表のアタック
HO堀江が自分で走ることができる状態で、SO田村とWTB松島もパスを受けに走る。選択肢が多い攻撃で相手DFを翻弄した 【写真:アフロ】
日本代表は、前回大会も3勝したが4トライ以上のボーナスポイントを獲得することができずに予選プール3位に終わった。だが、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)に率いられた「ジェイミー・ジャパン」はアイルランド戦以外で、4トライ以上を挙げてボーナスポイントを得るだけの攻撃力を培っていた。
予選プール4試合だけを前回大会と比較するとトライ数は9から13に、総得点は98点から115点に増え、失点は100点から62点と減った。
攻撃をデザインしていたトニー・ブラウンコーチ
日本代表の攻撃をデザインしたトニー・ブラウンコーチ(中央) 【写真:アフロ】
ニュージーランド出身のブラウンコーチは、キック、パス、ランを使って「スペースを攻める」アタックを信条とし、戦術では世界の最先端を走っているコーチだった。「常に同じアタックはしない」と毎試合、ワールドカップでもスーパーラグビーでも相手によって戦術やサインを変えていた。
2016年秋、ブラウン氏はジョセフHCとともに日本代表のコーチとなると、パナソニックやオーストラリア代表でも採用されていた「4ポッド」をアタック戦術の軸に置く。FWを「1-3-3-1」の人数で配置し、左右のポッドではBKの選手2人とバックローがユニットをつくる。そしてハーフ団やFBなど3人がゲームコントローラーとなる。
ミッドフィールドのFW3人ずつのユニットに立つ選手たちは「スモウ」、外のユニットの選手たちは「サムライ」、ゲームコントロールする選手は「ニンジャ」と呼ばれた。特に「サムライ」の選手たちにアタックで“モメンタム”(勢い)を出すためにオフロードパスを奨励され、役割の一つとなった。
“苦手な部分”を就任当初から鍛える
日本代表が苦手だったオフロードパスをつないで奪ったPR稲垣のトライ 【写真:ロイター/アフロ】
ジョセフHCは「(セットプレーなどの)ストラクチャーからのアタックはうまくプレーするが、アンストラクチャーになると手こずる部分があった」と苦手な部分を就任当初から鍛えた。
キックやオフロードパスをスキルとして定着させ、最終的にはキッキングゲームもパスラグビーもできる「戦術の幅」(リーチ マイケル主将)につながった。例えばワールドカップではFWに大きな選手が多いサモア代表戦では31回のキックを蹴ったが、相手のバックスリーにカウンターが得意なランナーがいるスコットランド代表戦では10回しか蹴らなかった。
少しずつ変化していった戦術
CTB中村亮土はさまざまな役割が求められる12番でレギュラーに定着した 【写真:アフロ】
2018年はジョセフHCとブラウンコーチがサンウルブズも指揮したことで、戦術は変化する。FWのポッドの一人に12番を入れることで、大外に2枚、FWを立たせることができるようになり、「2-3(12番を含む)-3-1」となる。2018年6月8日のイタリア代表戦で、日本代表は左のエッジ(大外)にWTB福岡堅樹、FLリーチ、No.8マフィと並べたことでトライも挙げている。
12番はFWシェイプを使って、FWを前に出したり、10番にパスを出したりと起点となった。そのポジションで2018年秋から輝きを増したのはSOとしてのプレー経験もあり、タックルが武器で、フィジカルにも長けたリーダーのひとりCTB中村亮土だった。