連載:ドイツ2部で戦う男たち

遠藤航、ベルギー時代を振り返る 手応えを得たヨーロッパでの初シーズン

島崎英純

夢だった海外でのプレー

遠藤航が初の海外挑戦となったSTVV時代について振り返る 【島崎英純】

 湘南ベルマーレ、浦和レッズ、リオ五輪代表、そしてA代表でも、遠藤航は常に平然とプレーする選手だった。

 2018年8月5日、ベルギー・リンブルフ州に属する古都ゲンクで、遠藤の新天地シント=トロイデンVV(STVV)でのデビュー戦を観た。チームに合流してまだ1週間が経ったに過ぎなかった。チームメートの特徴も把握の途上で、彼は後半途中に攻撃のタクトを握るトップ下のロマン・ベズスに代わってピッチへ立った。
 おそらく自らのサッカー人生で最も攻撃的なポジションを任された彼は、1点ビハインドの状況で鋭く右足を振り抜き、相手ゴール左隅にボールを蹴り込んだ。百戦錬磨のベテラン選手のごとく、彼は平然とチームの窮地を救った。

「自分でもあんなにうまくいくとは思わなかった。出場したポジションがボランチというよりもシャドー寄りで、交代したのも10番のトップ下の選手との交代だった。でも、僕がピッチへ入る直前にチームが失点して点を取りにいかなくてはならない状況だったので、割り切っていましたね。本来の僕は守備的な選手だけど、攻撃に重きを置いてプレーしようという覚悟で試合に入った。とにかくゴールに向かっていくというイメージだったんですけど、その最初のプレーでうまくいったんですよね」

 遠藤にとって、海外でのプレーは積年の夢だった。

「元々海外志向はずっとあったんです。17、18歳くらいの頃から。湘南のトップチームに上がらなくても、そのまま海外へ行きたいと思っていたくらい。でも、移籍したくてもオファーがなければ実現なんてしないですよね。だから湘南ユースでチョウさん(チョウ・キジェ)に評価されてトップチームに昇格して湘南でプレーして、16年に浦和レッズへ移籍してからも海外のことは考えていた。

 それで、去年(18年)の夏に初めて海外からオファーが来たんです。それがベルギーリーグのSTVVだった。だから、移籍はすぐに決断しました。ずっと海外へ移籍したかったから、やっと行けた感じ。もちろんレッズで『もっとタイトルを獲りたい』という思いもあったけれど、迷いはなかった。それと、ロシアワールドカップの代表メンバーに選ばれながらも試合出場がかなわずに悔しい思いをしたのも大きかったですね。それは個人としても代表としても。そこで、やはり海外でプレーすることが重要だと痛感した。それと、中盤でプレーしたい思いがあったのも移籍を決めた要因になりました」

ベルギーは「すごく意義のあったリーグだった」

ベルギーは全く印象がなかったという遠藤だが、「すごく意義のあったリーグだった」と話す 【Getty Images】

 遠藤にとってベルギーは未知の世界だった。イングランドのプレミアリーグやドイツのブンデスリーガなどはテレビで観て、そのリーグの雰囲気を感じていたが、ベルギーの国内リーグについては事前情報をまったく得ていなかった。

「正直オファーが来る前まではベルギーについて全く印象がなかった。リーグの試合を観たこともなかったし、どういうチームがあるのかも分からなかったんです。でも、『ベルギーリーグだから行かない』という考えはなくて、とにかく海外に出たいという思いの方が勝った。いざ行ってみれば、とても面白いリーグでしたよ。個人的な成長という意味では、すごく意義のあったリーグだったから」

 STVVはベルギー東部に位置するオランダ語圏の街である。ドイツ国境に近いベルギー第5の都市・リエージュからは直行列車がない、文字通りの田舎町だ。街の中心部には広場があって瀟洒(しょうしゃ)なレストランやカフェなども点在するが、そこから10分も歩けば広大な草原が広がっている。STVVのホームスタジアムである「スタイエン」は街中から西へ向かった郊外にあって、周囲にはスタジアムに併設されたホテルやスーパーマーケット、そしてレストラン、小さなパブがあるだけで、試合のない日は静けさに包まれている。

「STVVはヨーロッパに来てから最初の街だったので、『こういう街なんだ』と、普通に過ごしていました。最初の印象はとても良かったですよ。落ち着いていて雰囲気も良くて、スタジアムや練習場も近くていいなと思っていました。住んでみたら、すごい田舎だったと後々気づいた感じです(笑)。でも、僕は好きだった。あの、街の中心の雰囲気とか。あと、STVVはフルーツの街なんですよ、僕、フルーツ好きなんで、それは良かった(笑)」

環境面は日本の方が優れていた

 小さな街をホームとするサッカークラブ、STVVは17年に日本企業のDMMグループが経営権を取得し、クラブのさらなる発展を目指している。ただ、まだまだ資金力、経営規模、施設環境などはヨーロッパの列強クラブに遠く及ばず、日本のJリーグクラブと比較しても改善の余地がまだある。

「環境面は日本の方が優れていましたね。当然レッズのほうが優れていたし、湘南も施設が良くなって、STVVよりも湘南のほうが良いくらい。スタジアムの規模もそれほど大きくない。1万5000人くらいが収容人数のマックスで、観客も毎試合5000人くらいしか入らない。でも試合の雰囲気は思っている以上に良かったです」

 STVVの指揮を執るのはマーク・ブライス監督。18-19シーズンからチームを率い、19-20シーズンは現場の最高責任者を務める。遠藤以下、このチームに在籍した選手たちは、この指揮官に大いに鍛えられた。

「ブライス監督が課す練習量はだいぶ多いですね。でも、元々僕が所属した湘南のチョウ監督は練習量が多かったし、ソリさん(反町康治)も練習をよくやる監督だったので、そういう意味では懐かしい思いもありながらやっていましたね。最初の数週間はきつかったですけど、それも慣れたらやれてしまうもので……。

 逆にレッズの場合は試合数が多い中で普段の練習ではリカバーに充てることが多かった。STVVでは試合数の関係もあると思うんですけれど、それほどリカバーがなくて、しっかりトレーニングをやる。それは監督が決めることなので、僕らは従うだけだし、意外と練習をやればできるんだなとは思いました」

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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