甲子園出場のドラフト候補を診断 奥川以外に強烈な印象を残したのは?

西尾典文

履正社・井上が好投手から快打連発

履正社・井上は2戦続けて好投手から快打を飛ばす。高校生離れした体格を持ちながら、決して力任せにならないスイングを見せる 【写真は共同】

 一方、野手で最も強い印象を残したのは井上広大(履正社)だ。

 選抜では奥川の前に4打数ノーヒット、2三振と完璧に抑え込まれたが、この夏は1回戦で鈴木から一発を放つなど3安打2打点の大活躍。2回戦でも前から痛烈なレフトへのツーベースを放ち、2試合続けて好投手を相手に結果を残して見せた。
 187センチ、95キロという高校生離れした体格とパワーを誇るが、決して力任せにならないところが井上の長所。タイミングを取る動きが小さく、ボールをしっかり呼び込んで強く振り切ることができるのだ。鈴木から打った本塁打は少し抜けたスライダーを詰まりながらレフトスタンドまで運んだものだったが、会心の当たりではなくても本塁打にできてしまうのはスラッガーの証明である。プロでも需要の高い右の強打者タイプだけに、巡り合わせによっては上位指名の可能性も十分に考えられるだろう。
 左の強打者タイプでは黒川史陽(智弁和歌山)が目についた。1回戦では3打数ノーヒット、2四死球と快音は聞かれなかったが、春までと比べてバットの無駄な動きが小さくなり、振り出しもスムーズになった印象を受ける。強打者タイプだが脚力も申し分なく、セカンドの守備でも再三軽快な動きを見せていた。「強打のセカンド」という希少性の高さは大きな魅力である。

捕手の好素材、ショート4人衆…

 他では大会前の評判通り捕手の好素材が多く、持丸泰輝(旭川大)、山瀬慎之助(星稜)、藤田健斗(中京学院大中京/岐阜)、有馬諒(近江/滋賀)、東妻純平(智弁和歌山)、進藤勇也(筑陽学園/福岡)などの名前が挙がる。

 地肩の強さでナンバーワンなのは山瀬。力を入れた時のボールは地面を這(は)うような低さで二塁ベースまで届き、その迫力は圧巻だ。捕球から送球までの流れの良さは進藤が素晴らしい。素早い動きで強いボールを投げられ、イニング間のセカンド送球のタイムは筆者が計測した中で初戦最速の1.81秒をマークした。持丸、藤田、有馬、東妻は打てる捕手としての能力も光る。
 それ以外では武岡龍世(八戸学院光星/青森)、石井巧(作新学院/栃木)、韮沢雄也(花咲徳栄/埼玉)、西川晋太郎(智弁和歌山)のショート四人、三拍子そろった外野手の斎藤來音(静岡/静岡)、天井一輝(広島商/広島)なども面白い存在だ。
 大会前には「奥川一人の大会」という声もあったが、全体的に見ても今後が楽しみな選手は決して少なくなかった。高校から直接プロ入りはしなくても、数年後に大学、社会人などで更に成長を見せてくれることを期待したい。

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著者プロフィール

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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