傷が癒えるごとにたくましさを増す――三嶋一輝は必死に“重い1アウト”を取る

日比野恭三

マウンドで表現するもの

後半戦スタートの7連戦で、チームを何度も救った三嶋 【(C)YDB】

 雨天中止の振替試合が組み込まれたことで、横浜DeNAのシーズン後半戦は7連戦で始まった。前半戦終了時点での順位は阪神と同率2位。4位の広島と1.5ゲーム差、5位の中日とも2ゲーム差しかなかった。この連戦の結果次第では、あっという間の5位転落も十分あり得たが、広島に2勝1敗、中日に3勝1敗と勝ち越して勝率5割の壁を突破するとともに、混戦の第2グループから一歩抜け出すことに成功した。

 その「投」のヒーローの一人こそ、本稿の主人公、三嶋一輝だ。

 勝った5試合すべてに登板し、1勝4ホールド。とりわけ中日との試合では、厳しい局面でマウンドを託されながら、リードを保って次の投手にバトンを渡し続けた。

 なかでも、7月19日のゲームにフォーカスしたい。

 DeNAは初回にロペスの一発で3点を奪うと、先発の平良拳太郎が6回無失点の好投を見せ、7回はエスコバー、8回はパットンと、型どおりの勝ち継投に入っていた。ところが、パットンが3連打を浴びるなどして2点を返され、なおも2アウト一、三塁。同点、逆転の危機にひんした。

 ベンチはここで決断を下す。次打者の京田陽太は左打ちであるにもかかわらず、右腕の三嶋をマウンドに送り込んだのだ。おそらくは予定されていなかった登板に、慌てることはなかったのか。ブルペンの様子を三嶋が明かす。

「電話が鳴る前から、キヅさん(木塚敦志投手コーチ)が判断してくれました。『一輝、ちょっと動こうか』って。ランナーが1人、2人と出たタイミングで、もう準備は始めていました」

 2球目に投じたスライダーは左打者の内角に食い込む。詰まった当たりのファーストゴロに打ち取って、この試合最大のピンチを三嶋はしのいだ。

 カード初戦に敗れていたDeNAは、ここで追いつかれ、試合を落とすようなことがあれば、8連勝中と波に乗っていた中日の勢いに飲み込まれかねなかった。次戦、次々戦も8回に1点差まで追い上げられる同様の展開となっただけに、わずか2球、わずか1つのアウトながら、敵にカードの主導権を渡さなかった意味は大きかった。

ヒーローインタビューで、マウンドに上がる気持ちの大切さを教えてくれた木塚コーチの誕生日を祝福 【(C)YDB】

 およそ1年ぶりにお立ち台に呼ばれた三嶋は、「気持ちも力もこもった球でしたね」とマイクを向けられると、こう答えた。

「それしかできないので。気持ちをこめて、毎試合毎試合、一生懸命投げていきたいと思います」

「それしかできない」のフレーズが印象的だったと伝えると、三嶋は熱い口調で語った。

「パットンは150キロを超えるまっすぐとスライダーのピッチャーで、そこに同じタイプのぼくが行く。セットアッパーが回の途中で代わる悔しさもすごく分かるし、じゃあこの流れを止めるためにいちばん大事なものは何かといえば、やっぱり気持ちだと思うんです」

 ヒーローインタビューでは、この日、42歳の誕生日を迎えた木塚コーチに祝福のメッセージを送った。木塚こそ、マウンドに上がる気持ちの大切さを教えてくれた人物だ。

 三嶋は言う。

「中継ぎの1アウトは本当に重い、軽い気持ちで抑えられるほど一軍の1アウトは甘くないんだということを教えてくれました。ぼくはもともと、気持ちを前面に出すようなピッチングをしてこなかった。なかなか結果が出なくて、一度はどっと下に落ちた人間です。昔は(木塚から)『お前はそれで戦えるのか』と言われましたし、普通の人と同じような気合いの入れ方じゃ、ぼくには足りないと思う。だからマウンドでは、自分の体全部を使って気持ちを表現するということを人よりも意識している。どんな場面でも、体が疲れていようとも、それは忘れないようにしています」

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著者プロフィール

1981年、宮崎県生まれ。2010年より『Number』編集部の所属となり、同誌の編集および執筆に従事。6年間の在籍を経て2016年、フリーに。野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを中心的なフィールドとして活動中。

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