連載:輝きを取り戻した男たち

今永昇太、「戻れる場所」を見つけた昨秋 理想のフォームを模索し続けた1年間

前田恵

3年目の昨季、「フォームのずれ」から不振に陥った今永。本来のフォームを探し続ける1年になった 【写真は共同】

 今永昇太は駒澤大学のエースとして、東都大学野球リーグで活躍。「大学NO.1左腕」と評され、2015年ドラフト1位で横浜DeNAベイスターズに入団した。1年目8勝9敗(防御率2.93)、2年目は11勝7敗(防御率2.98)と好成績を挙げ、2年連続でクライマックスシリーズ(CS)に進出。17年には日本シリーズも経験した。この年のシーズン終了後、第1回アジアプロ野球チャンピオンシップ日本代表(侍ジャパン)に選ばれ、台湾戦で好投。日本の優勝に貢献した。キャリアのスタートは、申し分のないものだった。しかし3年目に、思わぬつまずきが待っていた。

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不振の原因は「フォームのずれ」

 プロ入り3年目の18年を、今永は「ふがいない成績だった」と振り返る。春季キャンプ後、侍ジャパンの強化試合に出場し、チームに合流した直後から左肩に違和感を覚え、出遅れた。4月24日、シーズン公式戦初登板を果たしたが調子は一向に上がってこず、ついにはファーム落ちも味わった。

「肩を痛めた後から、リリースの位置がどうも違うような感覚がずっと続いていたんです。頑張って腕を振っても、なぜかボールが走らない。そこで、自分のフォームを映像で確認しました。すると、それまではテークバックのとき、体のラインから左手があまり(背中側に)はみ出さなかったのに、去年は自分でも驚くくらい、はみ出ていたんです。はじめはそれでもリリースまで間に合っていたんですが、どんどん間に合わなくなっていった。リリースの位置が自分の体より後ろにあるような感覚で、バッターからだんだん遠くなってしまったんですね」

 いわゆる「フォームのずれ」である。その大元の原因が本当に肩だったのかどうか、はっきりはしない。ただ、肩の痛みを気にしながら投げていくうち、フォームが少しずつずれていった可能性は否めない。

「フォームのリズムが悪ければ、投球のリズムも悪い。僕のフォームの中にはリズムがあるんですが、それもなんだかぎこちないものになっていきました。投げる前に迷いが出て、バッターに対する投球も2、3秒遅れる。それで間延びした試合も多かったんじゃないかと思います」

 その“迷い”を周囲も見て取ったのか。今永の不調はメンタルが原因なんじゃないか、という指摘もあった。「もっとこういう気持ちで投げろ」と多くの人にアドバイスされた。だが、メンタルは結局投げたあとの結果で「なんで弱気になったんだろう」「『強気でいったから良かった』としか言えないものなんじゃないか」と今永は思った。それならフォームから技術面をすべて見直し、あらかじめ「ここをこうすれば、こうなる」という修正能力を高めていったほうがいいのではないか。今永は、ピッチングの技術を追求する道を選んだ。

「というのも自分の頭の中に、以前から“これ(フォームのズレ)が原因で球がいっていないんじゃないか”という考えがあったんです。そこで、ファームに行ったとき時間をかけて取り組んだのですが、なかなか本来のフォームが取り戻せなかった。終盤また1軍に戻って中継ぎで投げても、悪い流れはずっと続いていて……。結局シーズン中は取り戻せず、1年間探してしまいました」

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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