ビッグ3にあって、錦織にないもの
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フェデラーに屈した錦織。ビッグ3の厚い壁はどうすれば打ち破れるのだろうか
フェデラーに屈した錦織。ビッグ3の厚い壁はどうすれば打ち破れるのだろうか【Getty Images】

 テニスのウィンブルドン選手権で、自身初のベスト4進出を逃した錦織圭(日清食品)。世界ランキング3位で第2シードのロジャー・フェデラー(スイス)相手に、第1セットを完璧なテニスで6-4と先取した錦織だったが、第2セットを1-6で落とすと、続くセットも4-6、4-6で逆転負け。これでウィンブルドン100勝達成というフェデラーの前に屈した。


 錦織がグランドスラムで『ビッグ3』に敗れるのはこれで5大会連続。立ちはだかる厚い壁はどうすれば打破できるのか? 元プロテニスプレイヤーでテニス解説者の辻野隆三氏が解説する。

最高の第1セット! しかし…

――準々決勝、フェデラー戦。錦織選手は惜しくも敗退となってしまいました。第1セットを先取と、非常に良いリズムで試合に入れたと思うのですが。


 一言で感想をということなら、「やっぱり芝でのフェデラー選手は強いな」ということに尽きます。第1セット、錦織選手は「やらなければいけないこと」をすべてやり切る、理想的なスタート。しかし、同時に「フェデラー選手がこのままやらせてくれるかな?」という不安はありました。


――仰るように第1セットは、辻野さんの戦前の見立て通り「リターンでプレッシャーをかける」という作戦で錦織選手が圧倒しました。あそこまでアンフォーストエラーを連発するフェデラー選手はあまり記憶にありません。ところが第2セットからは試合が一変しました。

 私は大きく二つポイントがあると見ていて、一つはラリーですよね。フェデラー選手が錦織選手のフォア側に、意識的に早い展開でボールを返すようになりました。フォアに打つタイミングが早まったという“早さ”と、スピードのある“速い”ボールを返してきたことで、錦織選手がやや差し込まれ気味にボールを返すことになりました。錦織選手も第1セットのままいけるとは思っていなかったでしょうし、変化に対応する準備はしていたと思いますが、1セット先取していただけに、フェデラーがもう少し違う攻めをしてくると思っていたのではないでしょうか。

フェデラーがサーブ配球を変えたのは、データに基づく戦略的な判断だと辻野氏は語る
フェデラーがサーブ配球を変えたのは、データに基づく戦略的な判断だと辻野氏は語る【Getty Images】

――もう一つのポイントは?


 サービスゲームの戦い方ですね。セカンドセット以降、フェデラー選手には14回、錦織選手には13回のサービスゲームがあったわけですが、フェデラー選手が2回しかファーストポイントを失っていないのに対して、錦織選手は7回失ってしまっています。


 サービスゲームのファーストポイントを失ってしまうと、0-15からの組み立てということになるので、ビッグショットを持っているフェデラーのような選手を相手にするときは、一層プレッシャーがかかってしまいます。


 第2セットだけを見るとファーストサービスの成功率は、フェデラー選手が53%、錦織選手が73%。しかし、入ったときのポイント率は、フェデラー選手100%、錦織選手36%と大きく差が開いています。


――サービスからの攻撃の組み立てが、フェデラー選手の巻き返しからの圧倒という流れを生んだということでしょうか?


 サービスの配球に関しては、センター中心のサービスからワイド中心のサービスに狙いを変えてきました。特にデュースサイドでは「錦織選手に対してスライス系のサービスが有効だ」という分析があってのことでしょう。また、しばらく続けた後は錦織選手がワイド系のサービスが来るだろうと予測しているところに、バック側にボールを集めたりと、常に変化を入れてきました。


 普通の選手なら、錦織選手のバックハンドのリターンが好調で、しかもコートサーフェスがボールが滑りやすい芝であれば「デュースサイドではとりあえずワイド系のサービスを続けておこう」となると思うんですが、フェデラー選手はデータや状況に基づいて戦略的にプレーを変えてきました。

先端をいくビッグ3の分析力とは?

フェデラー(中央)ら『ビッグ3』はデータ分析力でも先行している
フェデラー(中央)ら『ビッグ3』はデータ分析力でも先行している【Getty Images】

――オンコートコーチングが認められていないテニスでは、コーチやアナリストによる助言でゲーム中に戦い方を変えることはできません。フェデラー選手は、試合前からこのシチュエーションも想定していたということでしょうか?


 想定していたんだと思います。フェデラー選手は普段からすごくうまくいっている時でも、セット間でやり方をガラリと変えてきます。その変え方を見ていると、感覚的なものだけではなくて、根拠のある数字、データに基づいてプレーしているようにしか見えないんですよね。


――事前にアナリストと詳細なデータを見ながら分析をして、そのデータを自分のプレーに反映させているということですね。


 錦織選手は、2018年のウィンブルドンから5大会連続で『ビッグ3』の壁に屈したわけですけど、彼らが導入していてこれから錦織選手がやれる事を探すとすれば、このデータ活用と分析力、データに基づいた戦略・戦術の部分だと思うんです。技術が、メンタルが、というのもあるとは思いますけど、錦織選手が『ビッグ3』との比較で明確に大きく差をつけられているところは、ほとんどないと言っていいと思います。


――『ビッグ3』はデータ活用でもツアーの先端を行っている?

大塚一樹

スポーツライター。育成年代から欧州サッカーまで幅広く取材活動を行う。またサッカーに限らず、多種多様な分野の執筆、企画、編集にも携わっており、編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。

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