- Baseball Geeks
- 2019年7月8日(月) 11:00
トラックマンやスタットキャスト(Statcast)に代表されるトラッキングシステムの導入により、野球界には「革命」が起こっています。見えなかったものが見えるようになり、野球の「真実」が、徐々に解き明かされ始めています。
連載「それってホント? 野球の定説を検証」では、「あのときの僕」が信じていた野球の定説をデータやスポーツ科学を使って検証。観る人・プレーする人・支える人すべてに、野球の真実・野球の新たな面白さをお届けします。
第7回は「ノビのあるボールとは?」について。

「ノビのあるボール」。
野球ではごく当たり前のように使われる言葉であり、指導現場や試合中の解説でも耳にする事が多い。しかし、「ノビのあるボール」とは一体何なのか。これまでは指導者や選手の主観で表現されていたが、トラッキングデータの普及によりこの「ノビ」という言葉は客観的に評価できるようになった。
今回は、このボールの「ノビ」という言葉の正体をトラッキングデータで明らかにしていきたい。
キーワードは「回転軸の方向」
メジャーリーグでは全球場にトラックマンが設置され、そのデータの一部は一般公開されている。さらに、近年ではアマチュア選手が手軽に測定できるデバイスも登場。トラッキングデータの一般化は急速に加速している。
ボールの「球質」を考えるにあたり、最も注目を浴びているのが「回転数」だ。一見、回転数が多いボールはノビるボール、という印象を持ちやすい。しかし、実は必ずしも回転数の多さとボールの変化量が比例するとは限らないのだ。その理由はボールの回転軸の方向にある。
仮に、ボールの回転軸が進行方向と直角な、つまり純粋な「バックスピン回転」の投球であれば、回転数が増えれば増えるほどボールを変化させる力(揚力)がはたらく。
しかし、回転軸が進行方向と平行な、いわゆる「ジャイロ回転」のボールは、いくら回転数が増えても揚力は作用しない。つまり、ジャイロ回転のボールは回転数が増えてもボールは変化しないのだ。

少々難解な説明となったが、回転数「だけ」ではどんなボールかわからないということだ。メジャーリーグでも回転数偏重の報道や指導は減りつつあり、「回転数だけではボールの評価はできない」という認識に変わりつつある。
ボール変化量とは
では、球質を知るうえでどんなデータを見ればいいのだろうか。ここでは、「ボール変化量」という指標を紹介したい。
ボール変化量とは、重力の影響のみを受けてボールが到達する地点を原点としたとき、揚力の影響を受けてボールがどれくらい変化したのかを数値化した指標のこと。ボールの回転数と回転軸が揚力を決定する「原因」であり、ボール変化量はそれらによって変化した「結果」とイメージするといいかもしれない。

実際にボールが浮き上がることはないが、ほとんどの投手の速球は原点(図中青線)よりも左上に到達する。本稿ではこのボール変化量を使い、ボールの「ノビ」の正体を説明していこう。