連載:それってホント? 野球の定説を検証

“回転数多い=ノビのある球”ではない?  データから迫る「ノビ」の正体

Baseball Geeks

吉田輝星の快速球の秘密

 昨夏の甲子園を沸かせた金足農・吉田輝星(現北海道日本ハム)を例に解説しよう。秋田県の高校野球強化プロジェクトで測定した吉田のデータを、プロの投手や高校生投手と比較してみる。

投手方向から見たボール変化量(左投手は反転) 【Baseball Geeks】

 吉田の速球は非常に横変化(シュート成分)が少なく、縦変化(ホップ成分)が大きな、いわゆる「真上にノビる」ような速球だ。高校生平均よりも21センチもボールが上に到達するため、打者からすると見慣れているストレートよりもボール2,3個分ノビてくるように感じる。空振りを量産するのはもちろん、夏の甲子園では打者が低いと判断したボールがストライクゾーンに来るため、見逃し三振の場面も多くみられた。

 このような平均を上回るホップ成分こそがボールの「ノビ」の正体であり、打者の予想を裏切る変化のボールこそ打者の打ちにくいボールなのであろう。

高卒ルーキーながら、すでに1軍で白星を挙げている日本ハム・吉田輝星。高校時代からその独特な球質は打者に驚きを生んでいた 【写真は共同】

 吉田はルーキーながらすでに1軍の一流打者相手に、堂々たる投球を見せている。プロの投手たちと比較してもストレートのホップ成分は非常に大きく、プロ初勝利を挙げた広島戦(6月12日)でも、その球質の特異性に驚く打者の姿が印象深かった。時期尚早かもしれないが、将来的にはプロのステージでも空振りを量産できる投手になっていくかもしれない。

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 今回は、「ノビるボールの正体」を科学的に解説した。このように、球質が客観的にわかるようになるとプレイヤーだけでなく観戦者の新たな楽しみ方も創出できるだろう。

「昨日のマエケンの速球のホップ成分は50センチ超えてたぜ!」のような野球談義が居酒屋で起こる日はそう遠くないだろう。

(文:森本崚太/Baseball Geeks)

<引用>
神事努(2013): プロ野球投手のボールスピンの特徴 . 日本野球科学研究会第一回大会報告集:24-26

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著者プロフィール

株式会社ネクストベースが運営する最先端の野球データ分析サイト。「ボールがノビるって何?」「フライボール革命って日本人には不可能?」など、野球の定説や常識をトラッキングデータとスポーツ科学の視点で分析・検証していきます。 "野球をもっと面白くしたい" "野球の真実を伝えたい"。これがベースボールギークスの思いです。 書籍『新時代の野球データ論 フライボール革命のメカニズム』(カンゼン)が7/16より絶賛発売中。

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