連載:輝きを取り戻した男たち

五十嵐亮太、戦力外通告からの復活劇 契機となった「ロケットボーイズ」再結成

前田恵

今季から古巣・ヤクルトに移籍した五十嵐。現在は抹消中だが、夏場に向けて活躍が期待されている 【写真は共同】

 150キロ超の速球を武器に、2004年に最優秀救援投手を獲得。FA権を行使して10年、メジャーリーグに移籍し、メッツ、パイレーツ、ブルージェイズ、ヤンキースと4チームを渡り歩いた。13年の日本球界復帰後は、福岡ソフトバンクでセットアッパーとして日本一に貢献した。そんな華やかな経歴を持つ五十嵐亮太も、年齢とチームの若返りの方針には抗えない。戦力外通告を受け、行き場を失ったベテランピッチャーが今季、古巣・東京ヤクルトで復活を遂げた。その契機となったのは、かつての相棒だった。

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6年間在籍したソフトバンクを戦力外に

“渾身のストレート”を投げたい――。

 ピッチャーになったときからずっと、それが五十嵐のモチベーションだった。歩んできた時代ごとに、“渾身のストレート”は姿を変えてきたけれど、その1球にかける思いだけは、同じだった。そして39歳のオフ。五十嵐は6年間在籍したソフトバンクから、戦力外通告を受けた。

「あのときは心残りとか、不完全燃焼とか、そんな気持ちはありませんでした。僕はまだ技術的にも体力的にも、“やれる”と思っていたから」

 すぐ現役続行の意思を表明したが、他球団から声は掛からなかった。改めて、厳しい現実を突きつけられたのだ。

「もう、日本でプレーするのは難しいかなと思いました。そこでアメリカ、メキシコといった海外のチームも視野に入れて、移籍先を探し始めました。ただ、それがいつ見つかるか分からない不安はありました。自分ではまだできると思っていても、チームが決まらなければどうしようもない。現役を諦めたくはないけど、心のどこかに20年以上プロでやってきた自分に納得するような気持ちもあった。いろいろな気持ちが混じり合い、とても不安定な時期でした」

石井コーチと二人三脚で取り組んだフォーム修正

春季キャンプでは思い通りの投球ができず苦しんでいた 【写真は共同】

 複雑な思いを抱えたまま、自主トレ先のハワイに向かった。チームが決まらず、目標のない中で行う自主トレは、どこか空虚なものだった。やがて暮れも押し迫り、クリスマスムードに包まれたハワイ。そのとき、五十嵐の電話が鳴った。ヤクルトの伊東昭光編成部長だった。

「ウチに戻ってこないか?」

 古巣とはいえ、チームを出て早10年。6年前、日本球界復帰の際にもヤクルトが獲得に動いたが、五十嵐はソフトバンクを選んだ。まさかの再オファーである。古巣の期待に応えようと、それから入団発表までの1カ月は練習にも一層、身が入った。

 迎えた春季キャンプ。ブルペンでは、石井弘寿投手コーチが五十嵐の投球を見つめていた。かつて快速球を競い、2人合わせて「ロケットボーイズ」の愛称をもらった盟友であり、先輩だ。

「石井コーチは僕に気を遣ってくれたんだと思います。キャンプの間はある程度、僕に調整を任せてくれた。ところが、なかなか本来のボールが戻ってこない。いつ僕に声を掛けるか、適当な時期を見計らってくれたんでしょう。オープン戦が中盤になった頃、石井コーチと話し合い、そこから二人三脚でフォームの修正作業が始まりました」

 ここ3年ほど、五十嵐は太ももの肉離れや腰のヘルニアなど、度重なる故障に悩まされてきた。どこか1カ所故障すると、そこをかばうあまり、また別の箇所にずれが生じることがある。五十嵐も多分に漏れず、そうだった。

「どんな選手でも、100%いい状態でプレーできているときは少ないものです。どこか違和感があっても、変わらずプレーし続けるのがプロ。僕もここ数年、多少痛みがあっても、どこかでカバーしながら投げることを繰り返していました。自分が描いているベストのピッチングとは程遠いまま、悪く言えばごまかしながら投げてきた。それでフォームのずれが蓄積し、ピッチングが次第に崩れていったんですね」

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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