連載:輝きを取り戻した男たち

五十嵐亮太、戦力外通告からの復活劇 契機となった「ロケットボーイズ」再結成

前田恵

修正が難しい「フォームのずれ」

石井投手コーチへの感謝を語る五十嵐。かつての「ロケットボーイズ」の相棒が、今季の好調を支えている 【スリーライト】

「恥ずかしいですよね」

 そう言って、五十嵐は苦笑した。

「20年もやっているのに、フォームのずれが修正できないんだから。僕自身、なんでできないのかなと思うんですが、野球選手ってみんな、いつもフォームに悩んでいるんです。ピッチャーだけじゃない、バッターもそうです」

 フォームの修正。確かにこれほど難しい作業はないだろう。まず、「何が正しいのか」の定義がないに等しいのだ。だからみな、まずは「一番調子が良かったときのフォーム」に立ち返ろうとする。

「僕は“いいときに戻す”のは、あまり正しい方法ではないかなと思って、どの時期も、そういうフォームの作り方はしていないんです。でも、いいときの状態を追い求めたい気持ちは分かる。“だから、結果が出たんだ”と理由付けできるから。だけど、そこを追い過ぎてもダメだと思う。僕は自分が今ある中で、どうすべきかを見直すんです」

「僕の場合はやはり腰がよくなかったので、姿勢がどんどん悪くなり、お尻が寝てしまう。そこで、骨盤を立てる。また、姿勢を正すとあばらが開いてしまうから、それを抑えるために体幹に刺激を入れる。細かいことを挙げていくと、正直キリがない。でも、そういうところから石井コーチに見てもらい、今どのへんにずれがあったか、今どこの開きが早かったか、自分の脳に叩き込んでいきました。頭で描いたものと感覚のずれを修正、調整していくわけです」

史上初となる40代での月間5勝

 地道な作業はシーズンに入り、結果となって表れた。初登板から8試合連続無失点。4月は中継ぎのみで5勝をマークした。リリーフでの月間5勝以上は、伊東編成部長が現役時代の1988年8月、6勝を挙げて以来の記録。そして40歳以上での月間5勝は、史上初である。

「試合でそれなりに投げていることにも、数字そのものにも、僕自身ちょっとびっくりしています。要因はいろいろありますよ。リーグが変わって、バッターが僕のピッチングや球自体に慣れていなかった。けど技術的な問題を石井コーチにしっかり修正してもらったのが、やはり大きかったですね。それを継続して今に至っている。石井コーチには本当に感謝しています」

 とはいえ、修正作業はこれで終わったわけではない。

「投げている限り、その作業はやっていかなければならないと思います。日々、同じ感覚のつもりでも、やはりずれは生じる。だからその日いいところを自分の中で見つけ出し、何か一つポイントを定めて修正していく。それの繰り返しですね」

 5月28日、五十嵐は40歳の誕生日を迎えた。孔子は「不惑」と言うが、五十嵐はまだ迷い続けている。ポリシーである“渾身のストレート”を投げるため、試行錯誤を続けている。

(企画構成:株式会社スリーライト)

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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