17歳フェンサー・上野優佳が見据える未来 「今がゴールではない。目指すはその先」

田中夕子

自信になった世界ジュニア&カデ優勝

世界ジュニア&カデ優勝を果たし、喜ぶ上野(写真左)。太田雄貴会長もツイッターで快挙ぶりを伝えた 【写真は共同】

 全日本選手権で西岡に完敗を喫した同年、上野は13歳以上17歳以下に出場資格が与えられる世界カデ選手権に出場していたが、結果はトーナメント1回戦敗退。だが、世界を相手に負けた悔しさが、それまでとは違う前を向かせる原動力になったと上野は言う。

「次は絶対負けたくない。次こそ絶対優勝する、ってその時にものすごく思いました」

 翌年はベスト8で敗退。飛躍につながる転機となったのが、上京を果たし、ラストチャンスとして臨んだ昨年だ。

 カデで世界一になるべく、その前に開催された1つ上のカテゴリー、17歳以上20歳以下の選手が出場できる世界ジュニアに出場。プレッシャーも気負いもなく「負けてもともと」と臨んだことが功を奏し、度重なる接戦を制した結果が初優勝。勝たなければならない、と意気込んでいたはずの大会を前に、想定外だった世界ジュニアの優勝が後押しとなり、世界カデも制覇。短期間での度重なる快挙に太田会長も自身のツイッターで「本当に快挙なんです!」とアピールし、上野も予期せぬ勝利だったと言いながらも「自信になった」と振り返る。
「ジュニアとカデの(開催時期の)順番が逆だったらどちらも勝てなかったかもしれません。優勝できたことはめっちゃうれしかったし、何より、決勝のポディウム(メインピスト)で戦えるのが最高に気持ち良かったです」

 シニア代表にも選出され、活躍の場は一気に世界へ。上背でも手の長さでも勝る世界の猛者たちに引けを取らずに渡り合う、上野の武器はスピードだ。幼い頃から男子が練習相手で、男子のスピードと対峙(たいじ)するうち、小柄でパワーも劣る自分が勝つためにより速く動く意識が高まり、気付けば日本の女子選手では屈指のスピードが備わった。

 もちろん武器はそれだけではない。太田と同時期に世界と戦い、女子フルーレ日本代表コーチを経て、現在は日本フェンシング協会強化委員長を務める福田佑輔も「度胸と図太さは圧倒的」と称賛するように、堂々とした試合運びも世界で戦う経験を重ねるごとに磨かれ、団体メンバーのアンカーを務めた今年4月の世界ジュニアでは史上初の銀メダルを獲得した。

大きく踏み出した今、故郷への思いは…

生まれ故郷の大分を離れ、世界を相手に戦う日々を送る。来年の東京五輪を視野に入れつつ、選手としてのピークはその先に見据える 【スポーツナビ】

 五輪前年の今季は、世界各国を転戦するグランプリ、ワールドカップなど上位に入ればより多くのポイント獲得につながり、ランキングが上がれば五輪出場の道が一気に開かれる勝負のシーズンでもある。
 
 生まれ育った故郷を離れ、世界と戦う日々。当初こそ「不安だった」と振り返る。だが、大きな一歩を踏み出した今は故郷を恋しく思うどころか、地元に帰れば絶対ここへ行く、とか、これだけは食べたい、とこだわりがあるわけではなく、むしろ、大分の海の幸の代表格とされる関サバ、関アジも「生魚が食べられないから、食べたことがない」とあっけらかんと笑う。

「ここに行けば落ち着く、と思うような思い出の場所とか景色も特別ないんです。子どもの頃、家族で水族館とか動物園にも連れて行ってもらったんですけど、すぐ飽きちゃう(笑)。遊園地もジェットコースターは好きだけれど、ゆっくり回る観覧車は嫌。フェンシングだけでなく、何でも速い(笑)。別府に住んでいたから『いい温泉を教えて』と言われるんですけれど、そもそも温泉も嫌いで(笑)。お風呂もパッと入ってすぐ出ちゃうし、興味がないから答えられないんです(笑)」

 おそらく一生に一度の母国開催。見に行きたい、と思っていた東京五輪、そしてオリンピックという夢が現実の目標となった今、上野が描く目標は何か。

「今がゴールではなく、目指しているのはその先。選手としては28歳で迎えるロサンゼルスがひとつの節目になると思うので、それまでの東京、パリに出場して絶対にメダルを取りたいです」

 明るい笑顔に秘める勝負師の強さと、どこまでも広がる可能性。誰よりも速く、誰よりも強く。大きな世界にその名を刻むのも、きっとそう遠くない未来であるはずだ。

2/2ページ

著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント