連載:未来に輝け! ニッポンのアスリートたち
17歳フェンサー・上野優佳が見据える未来 「今がゴールではない。目指すはその先」
自信になった世界ジュニア&カデ優勝
世界ジュニア&カデ優勝を果たし、喜ぶ上野(写真左)。太田雄貴会長もツイッターで快挙ぶりを伝えた 【写真は共同】
「次は絶対負けたくない。次こそ絶対優勝する、ってその時にものすごく思いました」
翌年はベスト8で敗退。飛躍につながる転機となったのが、上京を果たし、ラストチャンスとして臨んだ昨年だ。
カデで世界一になるべく、その前に開催された1つ上のカテゴリー、17歳以上20歳以下の選手が出場できる世界ジュニアに出場。プレッシャーも気負いもなく「負けてもともと」と臨んだことが功を奏し、度重なる接戦を制した結果が初優勝。勝たなければならない、と意気込んでいたはずの大会を前に、想定外だった世界ジュニアの優勝が後押しとなり、世界カデも制覇。短期間での度重なる快挙に太田会長も自身のツイッターで「本当に快挙なんです!」とアピールし、上野も予期せぬ勝利だったと言いながらも「自信になった」と振り返る。
シニア代表にも選出され、活躍の場は一気に世界へ。上背でも手の長さでも勝る世界の猛者たちに引けを取らずに渡り合う、上野の武器はスピードだ。幼い頃から男子が練習相手で、男子のスピードと対峙(たいじ)するうち、小柄でパワーも劣る自分が勝つためにより速く動く意識が高まり、気付けば日本の女子選手では屈指のスピードが備わった。
もちろん武器はそれだけではない。太田と同時期に世界と戦い、女子フルーレ日本代表コーチを経て、現在は日本フェンシング協会強化委員長を務める福田佑輔も「度胸と図太さは圧倒的」と称賛するように、堂々とした試合運びも世界で戦う経験を重ねるごとに磨かれ、団体メンバーのアンカーを務めた今年4月の世界ジュニアでは史上初の銀メダルを獲得した。
大きく踏み出した今、故郷への思いは…
生まれ故郷の大分を離れ、世界を相手に戦う日々を送る。来年の東京五輪を視野に入れつつ、選手としてのピークはその先に見据える 【スポーツナビ】
生まれ育った故郷を離れ、世界と戦う日々。当初こそ「不安だった」と振り返る。だが、大きな一歩を踏み出した今は故郷を恋しく思うどころか、地元に帰れば絶対ここへ行く、とか、これだけは食べたい、とこだわりがあるわけではなく、むしろ、大分の海の幸の代表格とされる関サバ、関アジも「生魚が食べられないから、食べたことがない」とあっけらかんと笑う。
「ここに行けば落ち着く、と思うような思い出の場所とか景色も特別ないんです。子どもの頃、家族で水族館とか動物園にも連れて行ってもらったんですけど、すぐ飽きちゃう(笑)。遊園地もジェットコースターは好きだけれど、ゆっくり回る観覧車は嫌。フェンシングだけでなく、何でも速い(笑)。別府に住んでいたから『いい温泉を教えて』と言われるんですけれど、そもそも温泉も嫌いで(笑)。お風呂もパッと入ってすぐ出ちゃうし、興味がないから答えられないんです(笑)」
おそらく一生に一度の母国開催。見に行きたい、と思っていた東京五輪、そしてオリンピックという夢が現実の目標となった今、上野が描く目標は何か。
「今がゴールではなく、目指しているのはその先。選手としては28歳で迎えるロサンゼルスがひとつの節目になると思うので、それまでの東京、パリに出場して絶対にメダルを取りたいです」
明るい笑顔に秘める勝負師の強さと、どこまでも広がる可能性。誰よりも速く、誰よりも強く。大きな世界にその名を刻むのも、きっとそう遠くない未来であるはずだ。