橋本勝也、福島から世界一の選手へ ウィルチェアーラグビー“未来のエース”

瀬長あすか

世界一を経験した16歳

ウィルチェアーラグビー“期待の星”橋本勝也。昨夏の世界選手権優勝メンバーに名を連ねた16歳だ 【Photo:越智貴雄/カンパラプレス】

 2018年8月、オーストラリア・シドニーで行われた世界選手権。初めて世界一に輝いた日本チームの輪に、ウィルチェアーラグビー“期待の星”橋本勝也はいた。

 その2カ月前のカナダカップで代表デビュー。初めての世界選手権では大会初日の予選からコートに姿を現し、リオデジャネイロパラリンピック金メダルのオーストラリア戦にも出場した。代表最年少の16歳。スピードに乗った車いすはバランスを崩し何度も転倒した。だが、橋本は転んだ数だけ起き上がった。

「世界の強豪選手にプレッシャーをかけられたときに、冷静な判断をすることが自分にはまだできない。でも、いくら相手が世界の強豪と知っていても、1対1で抜かれるのはすごく悔しいんです。自分も(エースの池崎)大輔さんや(キャプテンの)池(透暢)さんのように戦える選手になって、国際舞台に帰ってきたいです」

 決して浮かれることなく、「経験のために連れて行ってもらっただけ」と控えめに語る橋本。そんな彼が高校生らしく笑顔をこぼした瞬間があった。地元・福島の中学や高校の友人から「ニュース見たよ」「おめでとう」と世界一を祝福するLINEが多数寄せられたと教えてくれたときのことだ。

「地元のみんなの応援はありがたいですね。学校の友だちとも、いつもは『課題進んでる?』というようなやり取りですが、世界選手権はBS放送で生中継を見てくれた友だちもいたみたいで、素直にうれしかったです」

ダイヤの原石を見つけ、導いた人たち

 02年、福島県田村郡三春町で生まれた。先天的な両手足欠損だったが、一般の小中学校に通い、車いすで義足をつけて生活していた。

 ダイヤの原石は、障がいのある子どもが成長の過程で通う療育センターの医師が見つけた。

「何かスポーツをしたらいいのでは?」

 そう周囲は少しぽっちゃりしていた橋本を促した。福島県では15年から運動のための動作を獲得する運動導入教室が行われており、当時中学生で体力を持て余していた橋本も週に1度、教室で体を動かすようになった。

 運動能力が高く、動きの習得も早かった橋本は、すぐに関係者の目に留まる。

 当時、車いすスポーツ界では鳥海連志(リオパラリンピック日本代表)という両手指欠損の車いすバスケットボールプレーヤーが頭角を現していた時期。そんなモデルがいたこともあり、橋本が車いすバスケットボールへの道を進み出したのは自然なことだった。

 だが、右手に4本の指が残る鳥海に対し、橋本の指は2本しか残っていない。

「勝也の障がいなら車いすバスケットより、四肢まひの選手のためのウィルチェアーラグビーのほうが適しているんじゃないかなと思いました」

 そう話すのは、車いすバスケットボール女子U25日本代表のトレーナーであり、橋本の中学の先輩でもある、理学療法士の野村潤。世界を見れば、オーストラリアにライリー・バットという四肢欠損のトップ選手がいた。

 橋本と同じく三春町出身で、シドニーパラリンピック・車いすバスケットボール銅メダリストの増子恵美もこう語る。

「勝也君はアスリートとして光るものを持っていた。でも、彼が世界を目指したとき、ボールハンドリングがうまくできず、きっと挫折すると感じたんです」

 ハの字にタイヤのついた競技用車いすを巧みに操る。そんな橋本の姿を見て、この才能をどうにかしたいと思った増子は、福島県障がい者スポーツ協会の職員だった。

 増子は同郷のウィルチェアーラグビー代表スタッフを通じて、リオパラリンピックでアシスタントコーチを務めたパラリンピアンの三阪洋行にコンタクトを取ると、彼を見てもらいたいと郡山でウィルチェアーラグビーの体験会を開催。翌年から東北を拠点としたクラブチーム「TOHOKU STORMERS」を作りたいと考えていた三阪は、まだ中学2年で状態のいい橋本を見て目を輝かせた。

「面白い選手がいるぞ」

 車いすごとぶつかるタックルを見て橋本自身もウィルチェアーラグビーにひかれていった。何より、彼にとって自分と同様の障がいがある人たちとの交流は刺激的だった。のちにチームメートとなる、リオパラリンピック銅メダリスト・庄子健にそのメダルを首からかけてもらうと、少しだけ笑顔で橋本は写真に納まった。

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著者プロフィール

1980年生まれ。制作会社で雑誌・広報紙などを手がけた後、フリーランスの編集者兼ライターに。2003年に見たブラインドサッカーに魅了され、04年アテネパラリンピックから本格的に障害者スポーツの取材を開始。10年のウィルチェアーラグビー世界選手権(カナダ)などを取材

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