2度も投手をクビになった広陵・河野佳 「夏に、この悔しさを晴らしたい」

楊順行

広陵の河野佳は3回途中6失点で降板。思い描いていたピッチングができなかった 【写真は共同】

 大会最多タイ4回の優勝がある東邦(愛知)と、それに次ぐ3回優勝の広陵(広島)。春に強い伝統校同士の好カードだが、意外なことに過去、甲子園での対戦は2回あるだけだ(1935年春・東邦商1−5広陵中、2004年春・東邦9−1広陵)。1回戦を1失点完投の東邦・石川昂弥と、3安打で完封した広陵・河野佳の投手戦になる……と思われたが、これも意外なことに初回、足をからめて2点先制した東邦が12得点で大勝した。

※リンク先は外部サイトの場合があります

「ストライクを先行させ、低めに球を集めるのが自分のピッチング。ですが今日はストレートが走らず、ストライクが入らず、甘くなったところをしっかりととらえられました」

 3回途中、6失点で降板した河野は肩を落とす。3回に浮いたスライダーを左翼席に放り込んだ石川によると、「1回の打席から(河野のまっすぐが)シュート回転していて、調子はあまり良くないなと感じていました」という。
 そう。1回戦で八戸学院光星(青森)を完封したときの河野の投球は圧巻だったが、今日はまるで別人のようだったのだ。

河野が大きく飛躍したきっかけ

1回戦の八戸学院光星戦では完封勝利。昨秋からの成長を示した 【写真は共同】

 その八戸学院光星戦を振り返ってみる。初回、先頭の伊藤大将を三振に取ったのは、自己最速を2キロ更新する150キロだったが、以降のストレートはほとんど130キロ台。「ヒジが痛いんか肩か、どこか故障でもしたんかと思った」と広陵の中井哲之監督も心配したが、本人は「7割の力で制球を重視した」と明かした。昨秋の中国大会・準々決勝の関西(岡山)戦では、球速を意識しすぎて7回途中8失点を喫し、「前のめりになりすぎる」(中井惇一コーチ)ことが課題だったが、今春はうまく力を抜けるようになった。

 8回、味方の2失策などで2死二、三塁。プロ注目の3番・武岡龍世を迎えたピンチでは、「自信のある直球で勝負」と141キロで内角をつき、ショートに小フライを詰まらせている。試合前、中井コーチに「完封するんで」と宣言するほどの好調ぶりは、終わってみれば有言実行の3安打完封だった。

 実はこの河野、投手を「クビになっている」と言う中井監督は、すぐ隣のお立ち台にいる河野に声をかける。

「おい、何回クビになったかな?」

「2回です」

 この掛け合い漫才に報道陣もドッと沸いたが、投手失格の期間は1年の冬に2カ月、2年の4月に2週間。不調から球速は120キロ台まで落ち、制球も定まらない。174センチの身長はさほど大きくもなく、野手転向を命じられたのだ。中井監督は言う。

「それでも、涙ながらにピッチャーをやりたいと訴えてきた。『泣くぐらい悔しいなら見返してみぃ』、と復帰させたんです。それからわずか1年たたないうちに甲子園で完封ですから、クビにしようと思ったことを謝るしかないですね(笑)」

 投手に復帰後は、体の使い方を変えたことで球速が飛躍的に向上した。

「新チームになってから、さらにグッと伸びました。体が強くて柔軟性もあり、球の回転数を計れば、たぶんすごいと思います。またガマン強いし、根性がある」(中井監督)

1/2ページ

著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント