2020年箱根駅伝へ、強豪校の今後を展望 青学大、主力5人抜け全く違うチームに?

スポーツナビ
 2日、3日に行われた箱根駅伝は、東海大の初の総合優勝で幕を閉じた。一方で総合5連覇を狙った青山学院大は、往路6位から追い上げるも届かず2位に終わった。

 次回大会に向けて「戦いは今この瞬間から始まっている」と語るのは、駒澤大の元エースで現在はランニングアドバイザーを務める神屋伸行氏。各校は来季に向けてどのように走り出すのか、展望を聞いた。

「来年も東海大が圧倒的に強い」とは言い切れない

初の総合優勝を果たした東海大は、主力として活躍した3年生が来季も残る。果たして今後の展望は!? 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

――3年生以下の選手が残る来季、駅伝強豪校の勢力図はどういった形になりそうですか?

 両角速監督が「来年のことはまだ分からない」と話していたように、東海大は今年の3年生が主体で来年もチームに残るのですが、(4区区間2位の)館澤亨次選手が1500メートルで世界を目指すために、もしくは(7区区間2位の)阪口竜平選手も3000メートル障害で世界を目指すために来年は箱根を走らないかもしれない……という話があります。

 東海大は世界に選手を出したいという思いを持って取り組んでいるチームなので、もしかしたら今回走った3年生の中から「僕は今年で箱根駅伝を卒業してトラックにいきます」という選手が出てくるかもしれません。なので、一概に「来年も東海大が圧倒的に強い」とは言い切れません。ただ、關颯人選手や松尾淳之介選手、高田凜太郎選手など今年出場しなかった選手の中にも駒がたくさんいるので、やはり東海大が話題の中心になるのかなと思います。「あの選手は(来年の)箱根を走るのか」といった意味でも注目されるかなと。

――10区間中、4年生が5人走った青山学院大は、今後3年生以下がチームをつくっていきます。

 青山学院大はただ5人が抜けるだけでなく、(山の)特殊区間を含めた主要な区間がゴソッと抜けてしまいます。精神的な柱でもあり青山学院大の象徴でもあった選手たちが卒業するので、全く違うチームになっていくと思います。東洋大にしてもそうですが、どのようにこれからチームをつくっていくのかが注目されます。

 今の青山学院大は1万メートルを中心に、箱根駅伝の仕様に合わせていくために長めの距離を踏んでいます。5000メートルの記録を見ると、橋詰大慧選手ら何人か得意にしている選手もいますが、記録はそこまで速くはありません。その点、東海大は5000メートルをやりながら1500メートルも取り入れ、かなり速いスピードをつけてきました。青山学院大は今後も今までの体制でやっていくのか、それともトラックをもっとやっていこうという発想になるのか……。

――総合3位の東洋大はいかがでしょうか?

 東洋大は青山学院大と少し似ているところがあります。東洋大はハーフマラソンを中心に練習を積んできているので、1万メートルではあまり速いタイムを出してはいません。学生三大駅伝すべてでしっかりと3位以内に入り、毎回優勝争いをするとても強いチームではあるのですが、勝つために今までのスタイルでやるのか、それともトラックをもっとやろうと考えるのかといった感じなると思います。

 東海大は今回トラックから長い距離へと強化の軸を移しました。青山学院大は1万メートルを中心にしていて、東洋大はよりロードに力を向けています。その彼らが今後、方針転換をするのかどうかが気になります。この後にハーフマラソンやマラソンを走る選手もいると思いますが、4月から始まるトラックシーズンに、果たして各校の選手がどの距離のレースにエントリーするか。それによってチームづくりの方向が見えてくるので、注目したいですね。

今後注目すべきチームはどこか?

――印象に残ったチームを挙げるとするとどこでしょうか?

 来季面白いかなと思うのは総合7位に入った国学院大です。東洋大は(2区区間4位の)山本修二選手が抜け、東海大も2区を走った大黒柱の湯澤舜選手が抜けますが、国学院大は今年の往路メンバーが全員残ります。彼らを来年の箱根駅伝でもそのまま使うのか、それとも復路にたくさん使った4年生が抜けるので総合的に組み立て直していくのか、方針が気になります。

神屋氏は来年の国学院大を面白い存在だと評する 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 また、5区で区間新記録をマークした浦野雄平選手が来年、もう1度5区にいくのかどうかも気になります。例えば今年の法政大で言えば、去年6区で区間3位と好走した佐藤敏也選手を1区に回してきました。彼が8月の金栗記念熊日30キロロードレースでかなり良い走り(4位)をしていたので、代わりの山の要員をつくって佐藤選手を1区に回すという形です。

 国学院大もこれと同様に、例えば5区をしっかり走れる選手を養成して浦野選手を2区に回し、今回2区を区間7位で走った土方(英和)選手を9区にし、1区10位だった藤木(宏太)選手を復路の7区に回す。そうすれば、その1区を走る選手は新たにつくればよくて、さらに6、8、10区をつくれば総合3位以内を目指せるチームができる……といった発想もできます。さらなるステップアップを狙うには、今年の往路の戦いだけで「良かった」ではなく、「今度は総合3位を目指します」といった目標のつくり方もあると思うんです。

 また、今回の東洋大のように往路は(前回のメンバーを)そのまま残し、復路は卒業して抜けた選手の分を新たに育成して、初出場の選手ばかりで勝負するという方法もあるでしょう。今後については、去年の(方針の)ままでよりレベルアップしていく、もしくは大きく変えて総合的に育てていくといった方針が考えられます。

――監督は来年の箱根駅伝の区間配置を見据えながら、選手の特性や走力と、チーム全体の方針とをすり合わせて選手を育成するのですか?

 その選手の適性や希望、次に入ってくる新入生や今いる控え選手たちの状態などを考えながらパズルのように組み合わせていきます。これは監督に経験や発想がないとできません。学生同士で話し合っても見えてこない部分だと思います。

 例えば青山学院大であれば、今回5区の竹石尚人選手がいまいちでした(区間13位)。来年の箱根で「もう1回リベンジだ!」ということもできますが、そもそも竹石選手は出雲駅伝でアンカーを務めるほどの実力者なので、1人で淡々と走る9区に回すという手があります。さらに、(8区区間2位の)飯田貴之選手が「5区を走りたかった」と言っていたので、来年は飯田選手を5区に回し、9区を好走した吉田圭太選手を2区へ回す。(10区区間2位の)鈴木塁人選手は3区にして、今年区間新記録をマークした森田歩希選手の役割を担ってもらう、といった形です。

 今後体制が変わる大学もあるかもしれませんが、変わらないところは今年の反省を来年にどう生かすか、箱根が終わったその日から(今後の方針を)練って、それを選手に伝えて一から一緒にチームをつくる。監督やコーチ達の戦いは今この瞬間から始まっているのだと思います。

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