「箱根で勝つ」の信念でチームが一丸 東海大初Vの要因を駒大OB神屋氏が解説

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東海大が初の総合優勝を果たした箱根駅伝を、駒澤大OBの神屋伸行氏が解説 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 第95回東京箱根間往復大学駅伝競争の復路が3日、箱根・芦ノ湖から東京・大手町の読売新聞東京本社前までの全5区間、109.6キロのコースで行われ、東海大が前日の往路2位から逆転し、10時間52分09秒の大会新記録で初の総合優勝を果たした。総合5連覇を目指した青山学院大は2位、往路優勝した東洋大は3位に終わった。

 トップの東洋大から1分14秒差で復路をスタートした東海大は、6区の中島怜利が前回大会に続き区間2位の走りで勢いをつけると、7区の阪口竜平がトップまで4秒差に迫る好走。さらに8区の小松陽平が1997年に古田哲弘(山梨学院大)が記録した箱根“最古”の区間記録を更新する快走で首位に浮上。続く9区の主将・湊谷春紀が東洋大を3分35秒差まで突き放し、勝負を決めた。最後はアンカーの3年・郡司陽大がリードを守り、笑顔でフィニッシュ。両角速監督は就任8年目で悲願達成となった。

 東海大が逆転優勝できたのはなぜか。駒澤大の元エースで、現在はランニングアドバイザーを務める神屋伸行氏に聞いた。

8区・小松の我慢の走りが勝負を決めた

――東海大が大会新記録で初の総合優勝を果たしました。

 終わってみれば優勝するチームはこういうものかなと思いました。ミスが全くなく、往復ともにしっかりつなぎました。また、8区の小松選手が22年ぶりに区間記録を更新して東洋大とのマッチレースも制しました。見えない位置から追撃してくる青山学院大を引き離していくというのは、なかなか難しいと思うんです。層が厚いとはいえ、關颯人選手が出ないので、どうなるかなとも思っていました。両角速監督は(これまでの方針を転換し)「今季は箱根駅伝を目指してやる」と公言しながらも出雲駅伝、全日本大学駅伝と結果が出ず、さらにトラックに注力しない中では不安もあったと思うんです。それでも「絶対に箱根で勝つ」という信念のもとで見事につくり上げた、終わってみれば本当に強いチームだったなというのを感じます。

――優勝の鍵になったのは?

 8区の小松選手です。6、7区と青山学院大が区間賞を取って着々と後ろからつめてきていたので、もし8区も区間賞だったら青山学院大は「いける!」と思ったかもしれません。でも、小松選手が冷静に東洋大の鈴木(宗孝)選手について、「ここでいける」と判断したところでスパッといって区間新記録。これで完全に後続をくじきましたし、東洋大にとっては「やられた」というところだと思います。鈴木選手は今季非常にいい調子で、1年生ながらかなり期待されて8区を任されたと思います。(レースでは常に鈴木選手が前に出て並走していましたが、)もし彼が後ろについて小松選手が前を引っ張る展開だったら、最後に鈴木選手がかわして、9区、10区で東洋大が粘ってという展開があったかもしれません。でも、そういった希望を完全に打ち砕く形のレースをつくったので、あそこが勝負の転換点だったかなと思います。

――小松選手のレース運びのうまさが勝因の一つと?

 小松選手は持ちタイムがいい選手です。青山学院大はある程度離しておいたほうがいいですし、東洋大も早く離したいという思いがあったと思います。しかも3年生の小松選手に対して東洋大の鈴木選手は1年生です。ですから、自分が主導権を握ろうと考えることもあると思うのですが、そこをあえて我慢してしっかりと勝負に徹したというのは、なかなかできることではありません。チームのことを考えてやったのだろうというイメージがあります。そういう意味で今回の東海大は見事な継投で、それぞれがチームのことを考えてしっかりやってきたのだろうと感じました。

――東海大はこれまで村澤明伸選手や佐藤悠基選手ら多くのスター選手を抱えながらも、総合優勝ができませんでした。ようやく栄冠をつかめたのは、やはりチームのためにという高い意識があったからでしょうか?

 東海大は3年生にいいメンバーがそろっていて、高校駅伝の強豪校から各チームを代表するような選手が集まってきました。最初はトラックを中心に切磋琢磨(せっさたくま)してきたと思うのですが、それが今季は「箱根駅伝を勝つ」という方針のもとでやってきました。これまでトラックでガンガン勝負してきた中で、協力してチームをつくっていくというのは大変ですし、勇気も必要だったと思うのですが、その中で個人の競技よりチームが勝つために自分がどう役割を果たすべきかを考えて、チームをつくってきた。それが見事に結実したのかなと思います。

“包囲網”に敗れた青山学院大

――総合5連覇を目指した青山学院大は、往路6位から挽回して総合2位に入りました。

 往路のレース解説で「青山学院大らしくない」という話をさせていただきましたが、それを払しょくさせる形で、「やはり青山学院大は強かった」と。6区の小野田(勇次)選手が追いたくなるところを冷静に走って、7区の林(奎介)選手も(区間新記録をマークした)前回大会と同じくらいのペースでずっと刻んできました。(こういう時は)オーバーペース気味になりがちですし、ついつい見る方も期待してしまいますが、前回大会をベースに堅実な走りをして、流れをつくり出し、追撃体制をしっかり築きました。その結果、届かないと思われていた東洋大には追いついて、突き放しています。東海大がもしここまで素晴らしい走りを見せなかったら、青山学院大につかまっていたかもしれません。そういう意味では見せ場はつくったのかなと。

6区の小野田(左)と7区・林(右)の実力者がともに区間賞を獲得。冷静なレース運びが光った 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 また、最後まで諦めない走り方をしっかりしていました。8区を走った1年生の飯田(貴之)選手は追う展開の厳しい中で区間2位を取っていますし、9区では箱根駅伝デビューの吉田(圭太)選手がしっかり走って「来季のエースは自分だ!」といったアピールができていました。戦いの中で育てる青山学院大の雰囲気はしっかりつくった上で、アンカーの鈴木選手で勝負していった。やはり強いチームですし、最後まで存在感を示していたと思います。

――青山学院大はもし往路での失速がなければ……といった部分はあるのでしょうか?

 青山学院大は過去の実績、今季の1万メートルやハーフマラソンの成績を見れば、優勝候補の筆頭に挙げられるに十分なチームだったと思います。それが一つ、二つのミスを許してもらえなかった。それは東海大の強さであり、厳しさだったのかなと。そしてこうした場面をつくったのは、やはり東洋大だったと思います。青山学院大は“青学包囲網”に敗れたというところはあるかと思いますね。

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