“世界3強牝馬”の夢対決は実現するか? 香港で聞いた外国騎手・メディアの評価
2頭出しの矢作厩舎が積み上げた海外での経験
海外遠征を積み重ね、今年こその意気込みで臨んだ矢作調教師(中)も悲願Vまであと一歩だった 【写真:有田徹】
しかし、競馬に勝利の方程式はない。どの陣営もトライアンドエラーを繰り返し、勝利に近づくためのノウハウを蓄積してきた。そのひとつの好例が今回のリスグラシューだ。ただでさえ繊細なタイプ。国際厩舎に到着後、環境の変化に戸惑っていたが、担当者が栗東では使わないウォーキングマシンへ即座に連れて行き、軽く運動したことで劇的に落ち着きを取り戻したという。
「以前は東京への輸送で馬体重が激減していたほど。それが香港でこの体なら十分でしょう」
経験から来る厩舎の対応力。17年のドバイターフではリアルスティールで答えを出し、今年メルボルンカップのチェスナットコートでは経験を積んだ。これらのことがスタッフからスタッフへ、ラグビーボールのように後ろへパスされながら着実に前進し、厩舎の財産となっている。これには矢作調教師もニンマリし、手応えを口にした。
「今回は何より2頭で来られたのがうれしい。海外の調教師ではエイダン(オブライエン調教師)と僕だけでしょう。2頭だとこちらが意図するような併せ馬ができるし、実際に併せて、2頭ともいい意味でピリッとしてきた」
だからリスグラシューには勝ってほしかった。単勝馬券を400香港ドル買っていたからというわけではない。レース後「一瞬勝ったと思った」と話した後、しばし言葉を詰まらせた矢作さん。次こそ、リベンジを果たしてほしいものだ。
さらに、好走の舞台裏ではチームジャパンとしての相乗効果というか、ほほえましい場面もあった。ヴィブロスとディアドラの秋華賞馬同士が大の仲良しだというのだ。「一緒にいると落ち着いている。ほんと助かってますよ」と友道康夫調教師が話せば橋田調教師も「牝馬だから特に大きいよ」と笑顔を見せていた。
3強対決、最適舞台は12月の香港か
何しろ、ジャパンカップをスーパーレコードで勝った極東の3歳馬に凱旋門賞連覇の4歳。さらに現在29連勝中でGI・22勝を挙げる南半球の女傑が相まみえるとあらば……。実際に現地の関係者、海外メディアも興味津々だった。
「悩ましい。比べられないよ」と答えたのはパートン騎手。「アップルとオレンジを比べてもね」という、ごもっともな意見もあるにはあったが、それぞれが自身の考えを大いに語ってくれた。
レーシングポストのスコット・バートン記者をはじめ、海外記者は世界3強牝馬対決をどう見ている? 【写真:山本智行】
その他では「1600メートルならウィンクス、2000メートルならアーモンドアイ、2400メートルではエネイブル」という見方や「ウィンクスは長期間ハイレベルを維持している」「いや、ウィンクスはオーストラリアを出ていないから評価を下げざるを得ない」「欧州の馬場ならエネイブルは負けない」などの意見もあった。
実際のところ、3強対決の実現性は薄いかもしれない。しかし、夢のある話をするのは楽しいし、望みは捨てたくない。舞台は3月のドバイか、あるいは10月のロンシャンか11月の東京か。いや、地理的な条件やシーズン、距離、海外遠征馬の出走実績などを踏まえると、最適なのは12月シャティンの2000メートルだろう。
3強対決。この山はどこまでも高い。しかし、その実現を世界の競馬ファンのだれもが待ち望んでいる。