強いオランダ代表が戻ってきた ドイツに歴史的勝利…偶然ではない

中田徹

オランダ紙記者との安どの会話

ネーションズリーグでドイツに3−0と完勝。オランダ代表はかつての熱を取り戻しつつある 【Getty Images】

 4年という月日は長いのか、短いのか。この間、オランダ代表は2016年ユーロと18年ワールドカップ(W杯)という2度のビッグイベントの出場を逃してしまったのだから、サッカーの世界ではきっと長いのだろう。だから、10月13日のヨハン・クライフ・アレナの盛り上がりには「ああ、昔のオランダ代表の熱い雰囲気と同じだなあ」と懐かしい思いすら抱いてしまった。なんと、オランダがドイツを3−0という歴史的大差で破ってしまったのだ。

 ドイツが作ったビッグチャンスを思い返すと、このスコアは決して妥当なものではない。フィニッシュの精度が高ければ、ドイツが勝つこともできただろう。そうは言いながらも、オランダの勝利は決して偶然ではなかった。

 オランダに住み、この国の空気を吸い、現場でサッカーを見ているからこそ感じるものがある。その代表格が、『アルヘメーン・ダッハブラット』や『デ・テレフラーフ』といった全国紙の記者たちだ。最近、私は彼らと「やっと、オランダのサッカーが戻ってきたな……」という会話をしたばかりである。

 ある記者は「デ・ヨング、デ・リフト(共にアヤックス)といったワールドクラスのタレントが出てきた。さらにベルフワイン(PSV)も加わってきたら、オランダ代表は面白い」と言い、別の記者は「チャンピオンズリーグ(CL)でアヤックスがすごく良いが、PSVのことも忘れてはならない。PSVはCLで2試合戦って勝ち点ゼロだが、そのサッカーの内容は評価に値する」と言う。私たちの会話には、長いトンネルから抜けた安どのような空気が流れていた。

PSV、アヤックスの欧州での活躍が自信に

 オランダ代表のロナルド・クーマン監督が、CL第2節のPSV対インテル(1−2)を見ながら、ニンマリと満足そうな表情を見せていた姿は忘れられない。ラツィオからインテルに移籍して活躍するセンターバック(CB)のデ・フライの勇姿は、確かに心強かった。だが、何よりもPSVの右サイドバック(SB)を務めるダンフリースの馬力、MFロザリオのクレバーな攻守と素晴らしいゴール。そして、ベルフワインの恐れを知らぬアクションもまた、クーマン監督を喜ばせたのだ。このPSVの若手3人衆はそろってオランダ代表の10月シリーズに呼ばれ、ドイツ戦でダンフリースとベルフワインは右サイドでコンビを組んだ。

 オランダサッカー・ウォッチャーの自信の源泉となっているのは、何と言ってもアヤックスだろう。CL開幕戦では、GKオナナとセンターFWフンテラールを除いてMFのような選手をズラリと並べてAEKアテネに3−0で快勝した。だが、さすがに本職のCBを置かずに勝てるほどオランダリーグPSVとのアウェーマッチは甘くなく、守備が崩壊して0−3で大敗を喫してしまった。

 そこで、CL第2節のバイエルン戦ではしっかりDF2枚(デ・リフト、ウーバー)を中央に置き、1−1というスコア以上の素晴らしいサッカーを披露し、オランダ国民にいい意味でのショックを与えた。バイエルン戦直後のオランダリーグAZ戦では、相手を完膚なきまでにたたきつぶす究極のサッカーで5−0で完勝した。アヤックスが通った後はぺんぺん草も生えない、それぐらいのサッカーだった。

「今のアヤックスは1995年のアヤックスと匹敵する」という声すら、オランダ国内では上がった。それはさすがに言いすぎだろうと、私は思う。だが、今季のアヤックスはCL予備戦、プレーオフからずっとレベルの高いサッカーを続けており、ディナモ・キエフを破ってCL本戦を決めた時点ですでに、解説者のファン・ホーイドンクは「今のアヤックスは、2年前にヨーロッパリーグ決勝に進んだチームより経験を積み、より強くなった。ここ10年で最強のチームだ」とまで言い切っていた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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