代表デビューを飾った2人への期待と妄想 融合と化学変化は持ち越されたけれど

宇都宮徹壱

4カ月遅れで実現した「あるべき日本代表」

パナマとウルグアイを迎えての10月の2連戦について、森保監督が掲げるテーマは「融合」と「化学変化」 【高須力】

「新鮮ですね。また新しく始まるなって感じです」と大迫勇也が語れば、長友佑都も「この若い選手たちと一緒に、新しい日本代表を作っていきたい」と意気込む。10月12日に新潟で行われる、パナマ戦前日のミックスゾーン。この日、メディア対応した6人の選手のうち、とりわけロシアでのワールドカップ(W杯)を経験している“欧州ロシア組”のベテランからは、新たな4年に向けてのポジティブな期待と意思が感じられた。

 森保一監督率いる日本代表は、9月11日のコスタリカとの初陣に国内組とリオ五輪組を中心としたフレッシュなメンバーで臨み、3−0で勝利している。ただし、これに先立つ9月7日に予定されていたチリ戦は、北海道地震の影響で中止。結果として、招集メンバー全員をテストすることはかなわず、コスタリカ戦に出場して結果を残した選手たちが再び招集されることとなった。今回はこれに、指揮官から新キャプテンに指名された吉田麻也をはじめとする欧州ロシア組が、新たに加わることとなった。

 パナマとウルグアイを迎えての10月の2連戦について、森保監督が掲げるテーマは「融合」と「化学変化」。4年後のW杯を目指すにあたり、次世代を担うであろうタレントをピックアップしながら、経験豊かなベテランを「融合」させて「化学反応」を求めていく。確かに、コスタリカ戦で躍動した前線にロシアで奮闘したディフェンスラインが合体した日本代表は、ぜひとも見てみたい。とはいえ中島翔哉にしても堂安律にしても、本当はロシアに連れて行くべき選手だったとも、個人的には思っている。

 限りなくベスト8に近づいたロシアでの日本代表については、もちろん最大限のリスペクトを惜しむつもりはない。しかしながら、過去最高となる平均年齢28.6歳で大会に臨んだ先の日本代表が、飛び抜けた経験値が担保される代わりに「未来を犠牲にする」という選択をせざるを得なかったのも事実。先送りされた世代交代は、ロシア以後の体制に委ねられることとなった。その決断に見合う成果は手にしたものの、ベテランとニュージェネレーションの融合は、できればロシアの地で実現させてほしかった。その意味で今回のメンバーは、4カ月遅れで実現した「あるべき日本代表」と言えるのかもしれない。

欧州ロシア組を2人を除いて温存した理由とは?

パナマ戦のスタメン。欧州ロシア組でスタメンとなったのは、原口と大迫のみ 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

「未来を犠牲にする」という意味では、今回の対戦相手であるパナマ代表も同様であろう。ロシア大会でのメンバーの平均年齢は29.3歳で、コスタリカとメキシコに次いで3番目に高かった。とりわけパナマの場合、主力選手の高齢化が顕著で、同国初のW杯ゴールを決めたDFのフェリペ・バロイは1981年生まれの37歳。FWのブラス・ペレスも37歳、同じくFWのルイス・テハダは36歳。いずれも2001年にA代表デビューした大ベテランだが、ロシア大会終了後に代表を引退している。

 パナマが所属する北中米カリブ海は、まずメキシコと米国という2大巨頭が君臨し、コスタリカやホンジュラスといった中堅国がこれに続く。キューバ(38年)、ハイチ(74年)、ジャマイカ(98年)、トリニダード・トバゴ(06年)といった島国が本大会に出場したこともあったが、いずれも一度きりの快挙に終わっている。そうして考えると、人口約400万人のパナマが「黄金世代」を引っ張り続けたのも、致し方なかったのかもしれない。大会後にチームを率いることになったガリー・ステンペル監督も「今後は若い選手が、引退した選手たちの代わりになるべきだが、大きな困難を伴うだろう」と前日会見で語っている。

 そんなパナマに挑む日本のスターティングイレブンは、以下のとおり。GK権田修一。DFには右から室屋成、冨安健洋、槙野智章、佐々木翔。中盤はボランチに青山敏弘と三竿健斗、右に伊東純也、左に原口元気、トップ下に南野拓実。そしてワントップに大迫勇也。コスタリカ戦で出番のなかったフィールドプレーヤーで、唯一再招集された冨安が初キャップを刻むことになったのは予想どおり。ただしコンビを組むのは吉田ではなく槙野で、キャプテンマークは今回も青山に託された。またGKの権田は、15年3月のチュニジア戦以来、実に3年半ぶりに代表のゴールを守ることとなった。

 実に新鮮なメンバー構成となったが、意外だったのは欧州ロシア組でスタメンとなったのが、原口と大迫のみであったこと。コスタリカ戦で会場を大いに沸かせた中島と堂安が、今回はベンチスタートとなったのも予想外だった。このスタメンを見る限り、パナマ戦は国内組をベースにしながら、冨安のテストと中盤にバリエーションを加えるのが主目的であるのは明らかである。森保監督が考える「融合」と「化学変化」を確認するには、次のウルグアイ戦まで待たなければならないようだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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