代表デビューを飾った2人への期待と妄想 融合と化学変化は持ち越されたけれど

宇都宮徹壱

2試合連続ゴールの南野、伊東、そして……

南野(写真)、伊東、そしてオウンゴールによる3得点は、コスタリカ戦とまったく同じ展開 【写真:つのだよしお/アフロ】

 前半の日本は、パナマのフィジカルの強さとスピード、そしてゴール前での手堅いブロックに手こずることになる。最初のチャンスは前半23分、青山からのロビングパスに室屋が右サイドからフリーで抜け出す。しかし室屋はシュートを選択せず、折り返したボールはそのまま逆サイドに流れてしまった。39分には、冨安からの縦パスに今度は大迫が右サイドで受け、ゴールラインぎりぎりで低いクロスを供給。ボールは伊東を経由して南野に渡るも、相手に詰め寄られてしまいシュートはならず。

 ようやく試合が動いたのは42分だった。相手のパスを青山がカットして、ハーフウェーラインから縦方向にパスを送ると、南野が巧みなターンでセンターバック(CB)のアロルド・クミングスを置き去りにして加速。背後からのプレッシャーにもまったく動じず、最後はGKホセ・カルデロンとの1対1を制した。南野の2試合連続ゴールで先制した日本は、そのまま1点リードで前半を終了する。

 後半に入ると、疲労のためかパナマのラインが間延びするようになり、日本は持ち前の素早いパス回しを見せるようになる。後半20分、青山からパスを受けた原口が、ペナルティーエリア手前でスリップしながら前方にパス。すぐさま南野が走り込んで放ったシュートは、いったんは相手GKにブロックされるも、ゴール前に詰めていた伊東が2度のチャレンジでゴールに押し込んだ。南野に続く伊東の2試合連続ゴールで、日本のリードは2点に広がる。

 伊東は後半29分にも、右サイドで室屋との小気味良いパス交換から決定的なチャンスを作ったが、その7分後に負傷して堂安律と交代。それでも十分に存在感をアピールしたと言えるだろう。そして後半40分、この試合のラストゴールを演出したのも原口だった。左サイドからダイアゴナルにドリブルで持ち込み、後方から走り込んできた川又堅碁(後半21分に南野と交代)にラストパス。川又はマイケル・ムリジョに倒されるも、ゴールに向かう気迫が相手のオウンゴールを誘った。

 南野、伊東、そしてオウンゴールによる3得点は、コスタリカ戦とまったく同じ。そして2試合続けて、失点ゼロで終えることができた。一方、コスタリカ戦では6枚の交代カードをフルに使ったのに対し、今回は川又と堂安の他に、北川航也(後半21分に大迫と交代)と柴崎岳(後半43分に青山と交代)の4枚のみ。このあたりの指揮官の意図は、4日後のウルグアイ戦で明らかになることだろう。

一番の収穫は冨安、そして期待を抱かせる北川

A代表デビューを果たした冨安。この試合一番の収穫と言ってもいい 【高須力】

「勝つことが大事だし、選手のハードワークはたたえたいと思いますが、内容をポイントで見ると、攻撃も守備もまだまだ上げていかないといけない。これからさらにクオリティーを上げていけるように気を引き締めて、次の試合も勝っていきたいと思います」

 試合後の森保監督の会見である。2試合続いて3−0で勝利したとはいえ、内容には満足してない様子だ。当然だろう。パスミスとボールロスト、そして不用意なファウル。パナマのステンペル監督は「今日の試合は、ウチが0−3で負けるほどのパフォーマンスではなかった」と語っていたが、決して負け惜しみではなかったように思える。

 確かに褒められた試合内容ではなかったものの、それでも森保監督は選手をフォローすることも忘れなかった。いわく「ミスを少なくできれば、それに越したことはない」としながらも、「ミスを取り返すために、ミスをした選手も周りの選手もリアクションしていたことをポジティブにとらえたい」。この言葉を聞いて、まず思い浮かべたのが冨安である。当人も「細かいミスもありましたし、決してパーフェクトなゲームでもなかった」と反省しきり。それでも守備は及第点、攻撃面でもまずまずの貢献を見せていたことは評価できる。

 実のところパナマ戦の一番の収穫は、冨安の代表デビューではなかったか。単なる「顔見世」ではない。19歳の若きタレントが五輪を経験する前に、A代表のCBで初キャップを刻んだのである。このような快挙は、果たしていつ以来だろう。冨安の古巣である、アビスパ福岡の井原正巳監督は20歳で代表デビュー。のちの「アジアの壁」も、当時は筑波大の3年生であった。それから30年後、ベルギーでプレーする19歳に日本代表のディフェンスの未来が託されることに、深い感慨を覚えずにはいられない。

 もうひとり、この日A代表デビューを果たした北川についても言及しておきたい。清水エスパルスからの代表デビューといえば、ちょうど10年前の岡崎慎司のことをやはり思い出してしまう。08年10月9日、新潟でのUAE戦。当時の岡崎の背番号は、くしくも北川と同じ23だった。代表デビューが22歳だったのも、その会場が新潟だったのも、さらにトップ下で起用されたのも同じ。もちろん、岡崎と北川とではプレースタイルが異なるし、「単なる偶然」と言われればそれまでの話。それでも、10年前の新潟で静かにデビューした岡崎の「その後」を思うと、この日はシュートゼロだった北川にも妄想めいた期待を抱かずにはいられない。そんな不思議な余韻も感じられた、新潟でのパナマ戦であった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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