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MLBジャパン代表が語る日本戦略
メジャーリーグ普及のための役割と工夫
日本に常駐し、MLBヴァイスプレジデント アジア・パシフィックという役割を担うジム・スモール氏
日本に常駐し、MLBヴァイスプレジデント アジア・パシフィックという役割を担うジム・スモール氏【スポーツナビ】

 この秋、現役メジャーリーガーが来日し、4年ぶりに日米野球(11月9日〜15日/東京、広島、名古屋)が行われる。また来春には、メジャーリーグ(MLB)の公式戦としては7年ぶりとなるマリナーズ対アスレチックスの開幕シリーズ開催も決まっている(3月20日、21日/東京ドーム)。


 大谷翔平の活躍で日本のファンにも身近な存在となっているMLBだが、実は東京にもオフィスを構えている。今回、その日本オフィスで「ヴァイスプレジデント アジア・パシフィック」という役割を担っているジム・スモール氏に、MLBの国際化戦略、日本の野球文化、イチロー、大谷ら日本人メジャーリーガーなどについて、語ってもらった。(取材日:2018年9月14日)

「われわれはエンターテイメントビジネス」

――まず、MLBジャパン以前はどういったお仕事をされていたのか。そこからお話いただけますか?


 1982年からロイヤルズ、カブス、レンジャースでインターンやフルタイムのスタッフとして広報などを務めていました。カンザス大の学生時代にはジャーナリズムを専攻していて、ウォーターゲート事件の世代でしたし、調査報道をする(元ワシントン・ポストの)ボブ・ウッドワード氏やカール・バーンスタイン氏のような記者になりたいと思っていたのです。


 その後、ビジネスを勉強したくなりニューヨークのフォーダム大でMBAを取得。その後はナイキの国際マーケティングの仕事をして、98年にMLBへ戻って国際マーケティング部に入りました。


――日本へ来たきっかけは何だったのですか?


 2001年にイチロー選手が海を渡ったのをきっかけに、MLBとして日本に力を入れることになりました。その時の私の役割としては、日本でオフィスを開くための準備、例えば税金についてどうすればいいかなどを調べることでした。ただ誰も実際にオフィスを運営する者がいなかったので、「では2年ほど君がやってみたらどうだろうか」と言われ、快諾したわけです。03年から日本にいますが、2年ほどの予定が結局は15年になってしまいました(笑)。


――その日本についてですが、この国の野球およびスポーツ文化についてはどう見ていますか?


 日本で長い年月を過ごしていますから、ある程度は理解しています。自分の息子が所属している軟式野球チームでも、グラウンドへ入る際に一礼をする、道具を粗末に扱わないなど野球に対する尊敬の念が感じられます。一方で、ピッチャーが200球投げた翌日にまた登板……ということもありますが、それも少しずつ変わってきていると感じています。


 変化はプロレベルでも見受けられます。以前は、ファンは自分の応援しているチームにとても忠実であるため、球団がそこまでマーケティング努力をしなくても、球場に来てくれていました。変化が起きている理由のひとつは、さまざまな人達が参入してきたことが挙げられるでしょう。例えば楽天。彼らはなにもない状況から球団を立ち上げました。いま、仙台へ行くと、球場周辺はとてもエンターテインメントにあふれ、カーニバルのようでとても楽しいです。


 MLBもそこを意識しています。われわれは野球ビジネスをしているのではなく、エンターテインメントビジネスをしているのです。人々を楽しませることができれば、また球場に来てくれます。楽しませることができなければ、戻ってきてくれません。


 MLBではシーズンで7000万人以上の人に球場に足を運んでもらっていますが、その人たちにどうやって再び球場へ来てもらうか。MLBの各球団は、そこにとても力を入れています。天気や試合のスコア以外は、すべてコントロールできるものであるという考えで運営しています。食べ物や音楽、球場への出入りのしやすさ、そういったことを球団はコントロールしています。

活動分野は主に4つ

――では、スモールさんは正式にはMLBの「ヴァイスプレジデント アジア・パシフィック」という肩書ですが、主にどういった役割を担っているのでしょうか?


 主にはビジネスサイドのディレクションですね。そして中国におけるビジネス面でのトップの役割も与えられています。公式にはそういった業務ですが、要するにアジア地域全体でのビジネスオペレーションを担っているということです。われわれはMLB球団の利益につながる活動をしています。それは主に4つの分野に分類されます。1つはスポンサーシップ。1つは放送権まわりのメディア対応。1つはキャップ・Tシャツなどの消費者向けMLBライセンス製品の販売等。そしてイベント(興行試合)の開催です。つまり、われわれの役割はMLBの各球団の利益を最大化するための代理店のようなものですね。日米野球の場合だと、MLBを代表してわれわれが共催各社との交渉を担うわけです。大会運営やスポンサー企業とのやりとりもわれわれが行います。


 これが中国でとなると、先ほど申し上げた4つの分野での利益最大化をするためにも、まず必要なのは試合を開催すること、そして多くの人に野球をプレーする機会を持ってもらって、競技の理解を深めつつ楽しんでもらうように努めています。ですから、中国ではどちらかというと草の根の活動が多くなります。人々に野球を始めてもらい、学校でも野球を導入してもらったり、また20都市を回りMLBを身近に感じてもらう「MLBロードショー」というイベントも展開したりしています。日本はすでに野球がメジャーなスポーツですから、そういった草の根活動はあまり必要ありませんし、それは野球が盛んな韓国や台湾でも同様で、どちらかといえばハイエンド向けの取り組みをしているということになります。


 ただ、今はそういった国々でも草の根の活動も始めています。好例なのが「MLBカップ」です。4年前にリトルリーグ関係者と話を始めたのですが、彼らの危惧していたことの1つがリトルリーグに入ってくる子供の数が減少しているということでした。理由の一つとしては、主要な大会でプレーできるようになるまでには一定の年齢に達しないといけないので、その年齢まで待たないといけないということでした。親御さんとしては「うちの6歳、7歳の子をチームに入れても練習ばかりで、1軍のチームで大会に出られるようになるまでには何年か待たないといけないのです。それなら他の競技をさせます」となるわけです。それに対して、トップの大会のひとつ下の9歳から10歳(小学4、5年生)向けの大会を開催してはどうかと提案しました。7歳の子ならば2年待つだけで大会に参加できるわけです。その大会を「MLBカップ」として開催することになりました。今年で3年目の開催となりましたが、約3000人の子供たちが参加しました。ここまでは大きな成功を収めています。とても好評で、同様の活動を台湾や韓国でも取り組んでいくつもりです。

永塚和志
1975年、茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙『ジャパンタイムズ』記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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