田中将大がメジャーで生き残る理由 大型契約を可能にする姿勢と準備

杉浦大介

ペティットに次いでチーム2人目の快挙

タイガース戦で10勝目を挙げ、メジャーデビューから5年連続で二桁勝利をマークした 【写真は共同】

「大きなケガがあったらマウンドに上がれないわけだし、大きなケガじゃなくても、ケガがあったらマウンドにピッチャーは上がれない。こういう身体に産んでくれた、育ててくれた両親に感謝したいです」

 9月1日(現地時間)、タイガース戦で5年連続となる二桁勝利をあげた直後、ヤンキースの田中将大の言葉はいつになく感慨深く響いてきた。

「初めての記録じゃないし……」と記録の意味に否定的だった頃もあったが、9勝目の後、珍しく5戦連続で勝ち星から見放された後で思うところはあったのかもしれない。メジャーでの5年連続二桁勝利は黒田博樹に次ぐ日本人史上2人目。デビューからとなると日本人初で、長いヤンキースの歴史でも通算256勝左腕のアンディ・ペティットに次ぐ2人目という立派なレコードである。

「ペティットが球場に来たり、会ったときにはアドバイスもらったりとか、話したりとかする。尊敬するプレーヤーなので、そういう風に肩を並べられて嬉しいと思います。全然及ばないですけど、彼には」

 田中本人はそう言うが、自身も29歳にしてすでに日米通算161勝を挙げている。勝率の高さと耐久力を糧に全盛期のヤンキースで信頼を勝ち得たペティットと田中の間には、共通点は少なからずあるようにも思える。

ローテを守りながら適応していく能力

 先発投手を測る尺度として勝ち数を重視しないのが近年の傾向だが、田中、ペティットが成し遂げて来たように毎年10勝以上を挙げることに大きな価値がないとはやはり思えない。新陳代謝の激しいメジャーで、長期間ローテーションを守ること自体が並大抵のことではない。勝てなければ外されてしまうし、特に投手の故障離脱の増加が問題視されている近年ではその難しさはなおさらだ。そんな生き馬の目を抜くような米球界で、田中は紛れもなく自身の力で道を切り開いてきたように思えてくる。

 東北楽天時代の2013年は24勝0敗1セーブ、防御率1.27。ほとんど漫画や映画のような成績をひっさげてヤンキース入りが決まった頃、ニューヨーカーがまだ見ぬ“Ma−Kun”はスプリッターと速球で真っ向から勝負する本格派のイメージだった。しかし、実際の田中は、柔軟な意思に裏打ちされた適応力が売りの完成されたピッチャーだった。

 1年目の右肘の故障もあってか、全投球における速球の比率は40.6%、32.5%、31.6%、27.7%、25.4%と5年連続で低下している。メジャーのパワーに苦しんだ時期もあり、モデルチェンジを余儀なくされた部分もあったのだろう。今季は速球の割合がメジャーでもっとも低い先発投手(1000球以上投げている中で)だが、それでも変化球の制球と配球のうまさで好成績を保ってきた。

 真っ向勝負にこだわるのではなく、最大の武器であるスプリッターと心中するのでもなく、その時々で最善の術を探し出すのが真骨頂。“適応”と口で言うのは簡単だが、常勝が求められる名門チームでローテーションを守りながら、同時にアジャストメントを進めるのは並大抵の難しさではなかったはずだ。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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