川島永嗣の恩師が語るGKの神髄<第3回> 基本中の基本、「キャッチング」の重要性

GKにとって能力以上に重要な「ミスの少なさ」

並みのGKと偉大なGKを分けるのは、「ミスの少なさ」だ 【写真:ロイター/アフロ】

 GKはすべての振る舞い、すべての動作を、正しく行わなければならない。

 並みのGKと偉大なGKを分けるのは、まさにその点、すなわちミスの少なさだ。ひとつのミスがどれだけの重みを持つかは、誰にも分からない。ファンブルしたボールをDFがクリアしてくれることもあるし、誰も詰めておらず自分で抑える時間的余裕を持てることだってあるだろう。しかし、それが試合の勝敗、さらにはタイトルやシーズンの行方を分ける決定的な失点につながることもあるのだ。

 GKというポジションにおいて、ミスの少なさが、能力や技術の高さと同じ、いやそれ以上に重要視される理由は、まさにそこにある。それを左右するのは、突き詰めて考えていくと、ひとつひとつの小さな動作を常に正しく行うことができるかどうかなのだ。

 GKがシュートを「弾く」やり方には、拳を使うパンチングと、手のひらを使うディフレクティングの2種類がある。パンチングは、自分の正面に近距離から飛んできたシュート、あるいは近距離でなくとも非常に強いシュートを、立っている体勢で弾く時に使う。横にダイブしながらボールを弾く時には、100パーセント、ディフレクティングを使うべきだ。それはまず何より、手のひらを広げた方が遠くまで手が届くため。そして、ボールを弾く方向をコントロールできるという大きな利点があるからだ。

 ディフレクティングを使う場合も、もし両手で届く場合はできる限り両手を使う方が望ましい。というよりも、両手を使うことを基本として、それでは届かないと判断した時だけ片手を使う習慣を付ける必要がある。両手の方がボールとの接触面積が広いため、強いインパクトに対しても弾かれずに対抗できるし、手元に来てボールの弾道が微妙に変化した場合にも対応しやすい。片手でのディフレクティングは、より体が伸びる分、遠くまで手が届くが、ボールのインパクトに負けたり変化に対応できなかったりして、ボールを後ろに逸らしてしまう可能性が相対的に大きい。

 やむを得ず片手でディフレクトする場合には「順手」、すなわち右側のボールには右手、左側のボールには左手を使うことが基本となる。唯一「逆手」を使うのは、一定以上の高さの、しかも上から下降してくる弾道のボールに対してのみだ。この場合は、順手よりも逆手を使った方が、より早くボールに届くことができる。それ以外のすべてのボールに対しては、両手で届かない場合、高さにかかわらず順手で対応することになる。

キャッチできないボールは「CKに逃げる」こと

シュートやクロスへの対応の優先順位は? 【Getty Images】

 パンチングにせよディフレクティングにせよ、ボールを「弾く」場合に非常に重要なのが、どこに弾くかということ。常にそれを意識して、決して敵の届かない場所にボールを弾くインテリジェンスは、優秀なGKには欠かせない資質のひとつだ。いくら信じられないようなスーパーセーブを見せたところで、弾いたボールを敵の足下に送り届けてしまえば、ゴールを決められることに変わりはない。

 したがって基本は、キャッチできないボールはクロスバーの上か、ゴールポストの外か、いずれにしてもゴールラインの外に弾き出し、CKに逃げること。そうしている限り、少なくとも一度弾いたボールをゴールに押し込まれることはないからだ。たとえ、すばらしい反応とジャンプ力で不可能なシュートに手が届いたとしても、そのボールを正面にはじき返せば、相手にみすみすもう一度シュートチャンスを与えることになる。だが、いったんプレーを切ってCKに持ち込めば、守備陣形を整えて相手の攻撃を受け止めることができる。

 ディフレクティングで最も難しいのは、ファーポストを狙った斜めの弾道のシュート(あるいはクロス)への対応だ。たとえボールに手が届いても、もしディフレクティングに角度をつけすぎて、ピッチの中に弾き返してしまえば、ファーサイドに詰めている敵のアタッカーに絶好のアシストをするようなもの。この場合、シュートの軌道を最小限修正し、ファーポストの外側ギリギリにボールが流れてゴールラインを割るように弾くのがベストだ。ゴールの枠を外れる角度が小さければ小さいほど、ファーに詰めたアタッカーがそれに追いつく確率は小さくなる。

 シュートかクロスか分からないような、低くて速いボールへの対応も、理屈は同じだ。直接ゴールの枠を捉えていなくても、そのままやり過ごせばファーに詰めたFWが間違いなく押し込んでしまうようなボールは、ほんのちょっと触って微妙に軌道を変え、そこに詰めたFWがタイミングを一瞬外されシュートできないようにしてしまうのが最高のやり方。それ以外の場合は、たとえボールに触ったとしても十中八九、もうひとつの危険な状況を新たに作り出してしまうことになる。

 まとめれば、シュートやクロスへの対応の優先順位は、1番目がキャッチング、2番目がCK(あるいはスローイン)に逃げること、3番目は、ボールがピッチ内に残っても、そこに詰めた相手にシュートを打たせる状況を作らないこと(タイミングを外すなど)、4番目がともかく側方に弾くこと、そして絶対に避けるべきは、前方にボールを弾き返すこと――ということになる。正面に来たボールをやむを得ずパンチングで弾き返す場合には、できる限り遠くにクリアすることを心掛けなければならないが、それでも常にこぼれ球を拾われてシュートを打たれる可能性は残る。だからこそ、キャッチングという基本中の基本を徹底的に身に付けることが重要になるわけだ。
<第4回は9月30日(日)に掲載予定>

※本連載は、2004年から05年にかけて『ワールドサッカーダイジェスト』誌に掲載された連載記事「GKアカデミア」の内容を元に再構成し、フルゴーニ氏への新たな追加取材を加えてアップデートしたものです。

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著者プロフィール

1948年2月3日生まれ。パルマで当時13歳だったジャンルイジ・ブッフォンを見出し、一流に育てた名コーチ。その後ヴェローナ、レッジーナ、チェゼーナ、カリアリ、パルマのGKコーチを歴任。日本代表GK川島永嗣とは01年のイタリア留学を受け容れて以来恩師とも呼ぶべき関係にあり、14年にはFC東京のGKテクニカルアドバイザーも務めるなど日本とも縁が深い。

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