求められる対応力、特殊なメンタリティー 川島永嗣が語るGKの複雑さ<後編>

スポーツナビ

川島が欧州で直面したコミュニケーションの難しさとは? 【赤坂直人/スポーツナビ】

 サッカーにおいて、GKは特殊なポジションだ。試合に出てまったくボールに触らないこともあれば、シュートの雨にさらされることもある。良いプレーを続けて守護神とたたえられることもあれば、たった1つのミスで戦犯のように扱われることもある。

 レギュラーは1人だけで、スタメンを外れると出場機会をほとんど失い、アピールの機会はなかなか訪れない。川島永嗣は2016−17シーズンに加入したフランスのメスで第3GKという難しい立場から正GKまで上り詰めた。そこには10年から海外でプレーし続ける中で、川島が培った臨機応変な対応力があった。

 川島とは中学、高校と埼玉県選抜で共にGKとしてプレーした旧知の仲であり、現在は日本スポーツアナリスト協会の理事として活躍する千葉洋平氏がインタビュアーを務める本企画。後編は欧州で直面したコミュニケーションの難しさ、そして川島というアスリートを支えるメンタリティーに迫った。立場は違えど、共に世界で戦う同い年の2人の会話には、日本人が世界で戦うためのヒントが隠されている。(取材日:2017年6月27日)

欧州では、とにかくGKがボス

「欧州では、とにかくGKがボス」と川島。コミュニケーションは重要だが、キャラクターをしっかりと持ってやることも大切だという 【Getty Images】

――海外と日本の違いについて聞いてきたけれど、コミュニケーションはどう?

 コミュニケーションができないとやっぱりやっていけないよ。

――スタジアムの大歓声の中でも指示は聞こえるの?

 スタジアムによる。声が通らないときもあるし、メスのホームスタジアムは声が通るから、しゃべっていても聞こえる感じはあるね。だけど、本当にスタジアムとそのときの雰囲気次第かな。

――そうなると、普段からDFとの連係を構築しておかないといけないね。日本ではあまり、そこの練習をしないと思うんだよね。

 欧州では、とにかくGKがボス。GKができなかったらはっきりと言って、(DFに)やらせないとダメ。自分のボールだと思ったら味方をぶん殴ってでも出ていかないといけない。そうしないと逆にDFからぶん殴られる。もちろん練習の中で確認はするけれど、最後の状況判断は自分の確固たる判断でやらないと味方から信頼されない。

 中途半端にやってくれとか、行こうとしたけれど、やっぱり行かないとかやっていると、「あいつはダメだな」「あいつにはもう任せていられないな」と(なってしまう)。判断基準を自分の中に持っていないといけない。

「コミュニケーション」と単純に言われるけれど、難しいよね。話を聞いて、「この状況ではどうする?」「どうやってほしい?」という確認も大切だけれど、GKとして、ゴール前のボスとして、キャラクターをしっかりと持ってやることも大切かな。

――基礎をきちんとやることも大事だけれど、そうやって安心感を与えられるGKになっていかないといけないんだろうね。

 欧州に出てからは、それですごく悩んだよ。最初は日本の感覚で「これはDFの仕事、これはGKの仕事」っていう基準があったんだ。たとえば、DFがDFとしての仕事をやってくれなかったときに、自分にはそれはどうにもできないという感覚だった。

 でも、逆に(日本のDFより欧州の)DFにできないことが多かったりするんだよね。頭で考えるより体でいくタイプが多いから、簡単に1回のフェイントでかわされたりするし、そうすると簡単にGKと1対1の場面を作られるからね。

 日本の感覚だと「1対1の場面を作られたDFが悪い」という感じになるけれど、結局、最後はそういうシーンをGKが止めなかったら「GKは何をやっているんだ」ということになる。それで最初の頃は点を取られていた。そんなのコミュニケーションでどうにかなるかといえばならない。抜かれる選手を抜かれないようにすることはできないから。

――では、どうやって対応するの?

 来ることに対して準備しておくしかないよね(笑)。

――抜かれる前提で準備しておくのか(笑)。

 それしかないし、自分がどれだけ止める確率を上げることができるかということに頭を切り替えないといけなかった。自分の中にある前提をなくすというか……。

日本人であることの良さを貫くことも大事

――人のせいにしたくなるけどね。それをしていても仕方がないということに気付いたのかな。

 味方からGKのせいにされることもあるからね。向こうに言われて、自分が何も言わないと自分のせいになってしまう。だから言い返さないといけない。言い返さないと、向こうが「こいつには言っても大丈夫だし、こいつのせいにできる」という考えになってしまう。そこは戦わないといけない。

 戦わないといけないといっても、そもそも失点したりミスしたことに対して誰のせいとか、自分のせいとか言い争いをする文化が日本にはない。だから、そういうことをする自分は自分じゃないわけ(笑)。でもそれをやらないと生きていけない。

 自分が言うべきことを言っていかないと、全部が自分に返ってきてしまう。でもそれだけを考えていると、今度はGKとしての「深さ」はなくなってしまうし、それだけになってはダメ。だから、いろいろあったよね(笑)。

――GKとしての「深さ」ねえ。

 日本人GKはコミュニケーションができないから海外で通用しないとしか言われていなかったけれど、コミュニケーションさえできれば日本のGKが欧州でできるのかと考えたら、そんな単純な話ではない。実際に自分が話せるようになっても、それまで考えていたようなシンプルなことではないし、サッカーに対する文化の違いが入ってきたりする。

――そこは日本にいたら気付けないし、得られないものだよね。俺も外国人コーチ(フェンシング日本代表のオレグ・マツェイチュク/ウクライナ)とやっているけれど、理解できないことがたくさんあるし、理解できなくていい部分もある。自分の考えを伝えることの大切さ、言って変わらないのであれば仕方がないし、言わないよりは全然マシ。彼らはそういうのを気にしないし、逆に言わないとね。

「お前は何を考えているんだ? 何も考えてないんだな」で終わっちゃうからね。

――そこでコミュニケーションをとっていかないと信頼されないよね。日本の「言わない美学」がまったく通用しない世界なんだろうね。

 いつも葛藤があるけれど、「言わない美学」が日本の良さでもある。言わないとやっていけないんだけれど、日本人であることの良さを貫くことも大事なんじゃないかとも思う。どうでもいいところではぐちゃぐちゃ言いたくないし。

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