日本と欧州では“スタンダード”が違う 川島永嗣が語るGKの複雑さ<前編>

スポーツナビ

中学、高校と埼玉県選抜で共に切磋琢磨していたアナリストの千葉洋平氏が、川島永嗣に迫った 【赤坂直人/スポーツナビ】

 GKは評価が難しいポジションだ。より失点しないGKの方がいい選手と言えるが、GK同士を比較することは難しい。試合展開が影響するし、派手なビッグセーブを見せる選手が必ずしも優れているとは限らない。DFとの連係やコーチングも重要な役割だが、外から見ているだけではなかなか分からない部分もある。

 とはいえ、日本のGKの中で、川島永嗣がトップを走り続けているのは間違いないだろう。長年、日本代表のゴールマウスを守り、2010年からは海外でプレーし続けている。16−17シーズンから加入したメス(フランス)では、当初は第3GKと目されていたが、シーズン終盤にはポジションをつかんだ。川島というGKはいったい何がすごいのだろうか。

 今回、スポーツナビでは川島のすごさの一端を探るべく、日本スポーツアナリスト協会の理事を務める千葉洋平氏にインタビュアーを依頼し、川島を取材した。千葉氏は現在、フェンシングやテニスのアナリストとして活躍しているが、自身は大学までGKとしてサッカーを続けていた。川島とは、中学、高校と埼玉県選抜で共に切磋琢磨(せっさたくま)していた旧知の仲でもある。

 前編では、2人が出会った頃の昔話から川島がプロを目指したきっかけ、そして欧州に渡ってから感じた日本と海外の“スタンダード”の違いについて語ってもらった。(取材日:2017年6月27日)

サッカーを始めてからずっとプロになりたいと思っていた

川島は高校卒業後、大宮アルディージャに加入。高校入学時にはJリーグ入りを明確に目標として持っていたという 【(C)J.LEAGUE】

――最初に会ったのは中学2〜3年で埼玉県のトレセンのとき。当時の永嗣は、細長い人で、やんちゃなイメージがあった。

 選抜に行ったときはあまり慣れてなかったから、周りと絡むのが大変だった思いがある。そんな中でも、洋平とは絡みやすかった。

――GKとして、当時は俺も負けず嫌いだったから(川島は)たいしたことないと思い込んでいた(笑)。でも、高校生になってから会うと、急に体(肩幅などの体つき)がでかくなっていたから驚いた。

 高校のときは筋トレをやっていたからね。中学ではやらないし。

――意識もすごく変わっているのを感じて、すごく大人に見えた。発言も全く違っていて、練習に対してもすごくストイックになっていたから、「こんな人だったっけ?」と思った。

(高校時代は)坊主だったからじゃないの!? 中学のときは髪が長かったから(笑)。

 でも、確かに高校に入ってから意識が変わったね。野崎先生(正治/当時の浦和東高校の監督)の下でやるようになって、目標を達成するためには自分で考えて、努力しないといけなかったからすごく影響を受けた。そういうことを考えるようになったきっかけという意味で、高校のときに変わったと思う。

――当時の浦和東は選抜に選ばれた選手が多かった。元々良いチームだし、意識が高い学校だったけれど、仲間からの影響はあった?

 自分が周りに言っていた方だったね。プロになりたいとか、(高校サッカー)選手権に出たいという気持ちが強かった。今考えると、それが周りに対しては逆に強すぎたのかなと思う。そのときはあまり考えていなかったけれど。

――当時から他の選手とはセービングの範囲が違ったよね。飛ぶ距離とか(笑)。

 そんなに違った!? 当時はいっぱいいっぱいだったから、そんな感覚は全然ないよ。周りのGKと差があるなんて考えたことがなかった。

――すごく印象的だったのが、練習が終わったあとにやったゴールキックの練習。ハーフウェーラインの位置に置いたゴールを越えるという練習だった。当時の俺らは届かないんだけれど、(川島が)それを延々とやっていて、おかしなやつだなと思ったのを覚えている(笑)。

 そうだったね(笑)。俺もキックは元々下手で飛ばなかった。中学1年のときにもう1人いたGKがすごく飛ばせる選手で、筋力が強かった。彼には1回負けたことがあるんだよね。その選手が1学年上のチームに入ったけれど、自分は落ちたことがあった。そのときは泣いて家に帰ったんだけれど、負けていられないじゃん。それから練習前とかに自分で練習をやるようになったらキックが飛ぶようになっていった。

――プロになることを意識したのはいつぐらい?

 サッカーを始めてからはずっとプロになりたいと思っていたよ。だけど高校に入って自分が目標を決めるときに、選手権に出て、Jリーグに行きたいというのは明確に目標として持っていた。だから高校を選ぶときも、強い高校に行かないと選手権に出るのも難しいし、プロに行くためにもなかなか見てもらえない。だから高校を選ぶときに、そういう目線で決めたね。

欧州のGKはボールを「受ける」感覚ではない

日本ではGKはボールを「キャッチする」感覚だが、「欧州では自分がボールにアタックする練習をする」と川島 【写真:アフロ】

――プロになってからイタリアに留学したよね。海外でチャレンジしようと思ったきっかけは?

 高校で選抜に選ばれていたときにもアルゼンチンに行く話があったけれど、そのときには決断できなかった。でも海外にはすごく興味があったから、大宮(アルディージャ)とプロ契約するときに海外留学をさせてもらうことを条件に入れてもらった。そうしたら、たまたま1年目のときにイタリア人のエージェントがクラブに来て、「イタリアに連れて行ったらどうなるかを見たい」って言ってもらったのがきっかけ。

――海外に行ってみて、フィールドプレーヤーから刺激をもらうのか。それともコーチや文化的なものからか。または同じポジションの選手からなのか。海外と日本の違いはどういうところで感じる?

 当時は全部だったね。コーチの練習メソッドもそうだし、周りのGKのレベルを見ても「なんでこんなに違うんだろう」って思ったよ。練習のメニューが違うし、言われることも違う。

 留学1年目に一緒にやっていたのが15〜18歳ぐらいのGKで、そのときはあまりうまくないと思ったんだけれど、190センチ以上あってとにかくでかかった。でも、1年後に会うとすごくうまくなっていたんだよね。伸びるためのトレーニングメニューを、きちんとした方向性を持ってやっていると「ここまで伸びるのか」というのを感じた。

――そこは詳しく知りたいね。どうやったら伸びるんだろう。2人とも、子供のときにGKコーチはいなかった。日本でもGKとしてのメソッドを子供のときから学んでいたら、もっといい選手が今後出てくると思う。何がポイントなんだろう?

 いつも言うんだけれど、(欧州のGKは)ボールを「受ける」という感覚ではない。日本だとGKはボールを「キャッチする」「受ける」という感覚だけれど、「(欧州では)待つな。自分が向かっていく感覚じゃないとダメだ」と言われる。だから欧州では自分がボールにアタックする練習をしたりするわけ。そうすると守備範囲が全然変わってくる。

――ボールに触るポイントが前になるし、プレッシングも速くしないといけなくなるよね。

 そう。たとえば弾くときも「受ける」という感覚だとボールは後ろに飛んでしまう。でも前に行くとボールも前に弾けるから、ギリギリのシュートに対しても弾ける位置が変わってくるんだよ。

――練習から受けるボールの質やシチュエーションが違うということ?

 違うね。当時のイタリアはすごく細かかった。セービングの仕方や姿勢、立つときの足の使い方、体の使い方なんかもすごく厳しく言われたからね。

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