川島永嗣の恩師が語るGKの神髄<第2回> 失点数に直結する「ポジショニングの妙」

GKの真髄、第2回は「ポジショニング」の重要性を解説する 【Getty Images】

 サッカーにおいて異質であり、同時に重要なポジションであるゴールキーパー(GK)。大舞台になればなるほど、良い意味でも悪い意味でも、必ず話題にのぼる「守護神」の神髄を、ジャンルイジ・ブッフォンや川島永嗣の恩師であるイタリアの名GKコーチ、エルメス・フルゴーニ氏が全6回の短期集中連載で語る。(取材・構成:片野道郎)

GKに必要な技術の「基本中の基本」

 11人の中で唯一、手を使ってプレーすることが許されているGKに求められる最も基本的なプレーは、言うまでもなくシュートブロック、すなわちゴールの前に立ち、ゴールに飛んできたシュートをキャッチする、あるいはゴールマウスの外に弾き出すことだ。それを行うための具体的な技術としては、「立ち方」「構え方」に始まって、「ステップワーク」「ダイビング(飛び方/倒れ方)」といったこのポジションに特有の基本的な身のこなし、そしてそれを土台としたボールへの対処、すなわち「キャッチング(ボールを受け止める)」「ディフレクティング(ボールを手のひらで弾く)」「パンチング(ボールを握りこぶしで弾く。フィスティングとも言う)」を挙げることができる。

 しかし、これらの技術以前に、シュートブロックにおいて最も重要な、GKにとって基本中の基本というべき能力は「ポジショニング」だ。どんなに優れた身体能力、GKとしての高い技術を持っていても、ポジショニングが誤っていればシュートを防ぐ可能性は大きく下がる。むしろ、身体能力や技術は並でも、常に正しいポジショニングを取れるGKの方が、シーズンを通した失点数は間違いなく少ない。GKたるもの、どんな時でも自分の背後にあるゴールの存在を感じ、ゴールに対する自分の位置を正確に把握していなければならない。

 そのポジショニングの基本となる大原則はたったひとつ。ボールと2本のゴールポストを線で結んだときに、その2本線が形成する角の2等分線上に立つ、というのがそれだ。ボールとゴール中央を結ぶ線上、という言い方をした方が分かりやすいかもしれないが、それでは適切とは言えない。というのも、大事なのは、シュートが枠に収まる範囲を認識することであり、その観点に立てばボールと2本のゴールポストを結んだ線が形成する三角形のどこに立つか(横方向だけでなく縦方向の位置も含む)が、非常に重要だからだ。

 事実、GK育成トレーニングの中でも、実際にポストに長いゴムひもをくくりつけ、2本のひもの末端を私が持って移動しながら、その間にGKを立たせて、ポジショニングの感覚を身につけさせるというエクササイズを、私はよく使ってきた。こうすれば、ボールに対してどこにポジションを取れば最も効果的にゴールをカバーできるか、そして、ポジショニングさえよければ、大きくダイブしなくともゴールの幅は十分にカバーできることが、視覚的に理解できる。また、前に出れば出るほどカバーできるゴールの幅が広がること、ボールの位置が中央に近ければ近いほど、GKは前に出なければならないことも、実感できる。

シュートを打つ相手に「難しい選択肢を選ばせる」

まずは二アサイドのシュートコースを消すのがポジショニングの原則 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 しかし実戦の中では、ボールとゴールを基準にしたこのポジショニングの基本原則を守るだけでは十分ではない。相手のシュートに備える上では、さらにいくつか考慮に入れるべき大原則がある。その中で最も重要なのは、相手にとって簡単な選択肢を封じ、難しい選択肢を選ぶように仕向けることだ。シュートの難易度が高ければ高いほど、ゴールが決まる確率は低くなるのだから、相手をそちらの方に誘導して難しい選択肢を選ばせた時点で、GKは最初の駆け引きに勝ったことになる。それでもゴールを決められたのならば、それは相手が上手だったということであり、GKに落ち度はない。

 この大原則に基づくポジショニングのセオリーの中でも代表的なのが、「ニアポスト側のシュートコースは決して空けない」というものだ。ボールを持った側からすれば、ニアポストを狙った方がファーポストを狙うよりもずっと簡単で正確なシュートが打てる。また、ファーポストに向かうシュートは、たとえ枠に飛んだところで、ゴールラインを割るまでにゴールの幅全部を横切ることになるので、より長い時間を要する。その間に味方が戻ってきてクリアしてくれる可能性も出てくるわけだ。ニアポストへのシュートでは、その可能性はゼロに等しい。したがってGKはまず「ニアに打たせない」ことを第一に考えてポジションを取り、シュートを外す確率がより高いファー側に打つよう仕向けなければならない。

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著者プロフィール

1948年2月3日生まれ。パルマで当時13歳だったジャンルイジ・ブッフォンを見出し、一流に育てた名コーチ。その後ヴェローナ、レッジーナ、チェゼーナ、カリアリ、パルマのGKコーチを歴任。日本代表GK川島永嗣とは01年のイタリア留学を受け容れて以来恩師とも呼ぶべき関係にあり、14年にはFC東京のGKテクニカルアドバイザーも務めるなど日本とも縁が深い。

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