川島永嗣の恩師が語るGKの神髄<第1回> 守護神に必須の「リフレッシュ能力」とは

川島の恩師であるイタリアの名コーチ、フルゴーニ氏が全6回の連載でGKを語る 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 サッカーにおいて異質であり、同時に重要なポジションであるゴールキーパー(GK)。大舞台になればなるほど、良い意味でも悪い意味でも、必ず話題にのぼる「守護神」の神髄を、ジャンルイジ・ブッフォンや川島永嗣の恩師であるイタリアの名GKコーチ、エルメス・フルゴーニ氏が全6回の短期集中連載で語る。(取材・構成:片野道郎)

たとえどんなに馬鹿げたミスを犯しても

 言うまでもないことだが、サッカーにおけるGKというのは、他の10人のフィールドプレーヤーとはまったく異なるポジションだ。何よりもまず、GKはピッチ上にあって唯一「孤独」な存在だ。フィールドプレーヤーがボールを追って走り回り、互いに協力・連係しあってプレーするのに対して、GKはペナルティーエリアにとどまってほとんど動かず、しかも常に1人でプレーしなければならない。もちろん、チームのプレーにまったく参加しないというわけではないし、参加しなければならないのだが、その度合いは、フィールドプレーヤーとは全く比較にならないほど小さい。サッカーというアクティブなゲームの中で唯一、スタティック(静的)で孤独なポジション、それがGKなのだ。

 どのポジションにとってもそうであるように、GKにもそれに適したフィジカル的資質(体格、運動能力など)が存在する。しかし実は、GKというポジションをこなす上でそれ以上に重要なのは、メンタル的な資質である。どんなに体格が良く運動能力に優れていても、メンタル的に適性がない選手は、決してGKとして大成することはできない。

 では、GKに求められるメンタル的資質とは何なのだろうか。

 まず何より、GKは常に冷静沈着でいなければならない。何事にも動じることのない落ち着き、そして常に客観的に物事を捉える冷静さは、最も基本的な資質のひとつであり、直情的で感情の起伏が激しい性格の持ち主は、あまり適性があるとはいえない。

 ピッチ上で常に冷静さを保つのは、実のところ簡単なことではない。試合が順調に運んでいる時ならば問題はない。問題は、ミスをした時だ。失点につながるような失敗を犯した時に、気持ちを切り替えられずにミスを引きずってしまうと、間違いなくその後のパフォーマンスにも悪影響を及ぼす。最悪の場合はミスがミスを呼ぶ、という悪循環に陥って試合を壊してしまうことにもなりかねない。

 だから、たとえどんなに馬鹿げたミスを犯したとしても、そこで動揺することなくすぐに気持ちをリフレッシュできなければ、GKという仕事は務まらない。この“リフレッシュ能力”を持っているかどうかは、GKへの適性を決定づける資質のひとつなのだが、こればかりは元々の性格に左右される部分が非常に大きく、後から大きく向上させることは難しい。

向いているのは「凝り性で完璧主義者」

昨季CL決勝でリバプール(当時)のロリス・カリウスは痛恨のミスを犯してしまった 【Getty Images】

 また、GKには非常に高いレベルの集中力も求められる。90分続く試合の中で、GKのプレー機会はそう多くない。しかもプレーの機会は唐突にやって来る。その時に一瞬でも気を抜いていれば、ミスの確率は大きく高まってしまう。GKはプレーのひとつひとつが失点の可能性と直結しており、ひとつのミスが即失点を意味するポジションだ。したがって、気が散りやすい性格の持ち主は、GKには向かない。向いているのはむしろ、凝り性で完璧主義者、細かいことも決しておろそかにしないような性格の持ち主だ。

 GKのプレー機会は、チームが強ければ強いほど少なくなる傾向にある。そして、チームが強ければ強いほど、ひとつのミスに対して支払うべき代償も大きくなる。チャンピオンズリーグの決勝でGKがつまらないミスをしてゴールを許したらどうなるか、私たちはつい数カ月前に目にしたばかりだ。少ないプレー機会に、常に安定したパフォーマンスを見せ、なおかつ時にはチームをピンチから救う決定的なセーブをできるだけの能力がなければ、トップクラブのGKは務まらない。

 事実、GKとしてどれだけ偉大なプレーヤーになれるかは、ミスの回数の多寡(たか)によって決まるといっても過言ではない。どれだけ素晴らしい瞬発力や反応性、そして技術を持っていて、目の覚めるようなスーパーセーブを何度となく見せるGKであっても、ミスが多かったらトップレベルでは決して通用しない。「安定感に欠ける」という言い方がよく使われるが、その安定感を支える資質こそが集中力なのだ。

 さらにつけ加えると、ピッチ上で常に集中力を保ち続けるためには、決して自信過剰であってはならない。不安を持ち過ぎるのはもちろんよくないことだが、持たないのはもっとよくない。プレーがうまくいって当たり前、という気の緩みにつながるからだ。その気の緩みこそが、ミスを生み出す最大の温床だ。ひとかけらの不安と怖れ、警戒心を失わないからこそ、ひとつひとつのプレーを大事にこなすことができるのだ。

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著者プロフィール

1948年2月3日生まれ。パルマで当時13歳だったジャンルイジ・ブッフォンを見出し、一流に育てた名コーチ。その後ヴェローナ、レッジーナ、チェゼーナ、カリアリ、パルマのGKコーチを歴任。日本代表GK川島永嗣とは01年のイタリア留学を受け容れて以来恩師とも呼ぶべき関係にあり、14年にはFC東京のGKテクニカルアドバイザーも務めるなど日本とも縁が深い。

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