不発に終わった「真逆のスタイル」対決 いわきFCとFC今治、それぞれの事情
いわきFCが地域にもたらしたもの
チャリティーマッチのバナーを掲げて記念撮影をする両チーム。いわきFCと今治の対戦は今回が初めて 【宇都宮徹壱】
いわきFCといえば、昨年の天皇杯での躍進が記憶に新しい。2回戦では、北海道コンサドーレ札幌に延長戦の末に5−2で勝利。当時福島県リーグ1部所属のアマチュアが、6つカテゴリーが上のJ1クラブを破ったのだから、これ以上ないジャイアントキリングであった。と同時に、「日本のフィジカルスタンダードを変える」というスローガンのもと、ボールをほとんど使わずに肉体を鍛え上げるユニークなトレーニング方法も話題になった。だが、いわきFCのユニークさは、それだけにとどまらない。
この日は、いわきFCパークのレストランフロアにて、日本代表の専属シェフとして知られる西芳照さんのお店がオープンしていた(8月31日までの期間限定)。のぞいてみたら、これが長蛇の列。日本代表の選手たちが食べていたメニューが、地元でも楽しめるのだから当然だろう。いわきFCのクラブハウスは、総面積の半分が商業施設となっていて、レストランだけでなく、アンダーアーマーのアウトレットショップや会員制のトレーニングジム、さらには外車のショールームまである。ゆえに試合がない日でも、地元の人々はここを訪れては楽しそうにお金を落としていく。
それにしてもキックオフ2時間前だというのに、いわきFCと今治のチーム関係者の姿が見えないのは気になる。それもそのはず、この日のチャリティーマッチはいわきFCフィールドではなく、いわきグリーンフィールドで開催されることになっていたのだ。完全な思い違いをしていた私にそれを教えてくれたのは「いつもコラム、読んでいますよ!」と声を掛けてくれた地元出身のSさん。ありがたいことに、試合会場に車で運んでくれるという。道すがらSさんは、いかにいわきFCが地元に貢献しているかについて、実感を込めて語ってくれた。クラブが現体制で活動を始めてから3年目。いわきFCは着実に地域に根を下ろしているようだ。
ポゼッションの今治とフィジカルのいわきFC
試合前にあいさつをするいわきFCの大倉智社長。今治に対し「この機会に決着をつけたいと思います!」と宣言 【宇都宮徹壱】
対戦カードの決定について、いわきFCの大倉智社長はこのように説明してくれた。今回のチャリティーマッチは、7年前の東日本大震災、そして今年7月の西日本豪雨の復興支援を目的としている。後者については、愛媛県も甚大な被害を受けたため、今治というチョイスは正解だったと言えよう。一方で大倉社長には、今治との対戦について個人的に期するものがあった。それは試合前のあいさつでの、以下のコメントからも明らかである。
「ウチと今治さんは、この業界では『真逆のスタイル』と言われています。岡田さんは(早稲田)大学の大先輩ですが、この機会に決着をつけたいと思います!」
「真逆のスタイル」とはどういうことか? それはチームスタイルとクラブのスタンス、いずれにも当てはまる。今治は、ボールポゼッションとパスサッカーを駆使して、相手を圧倒するスタイル。対するいわきFCは、フィジカルと走力を強化のポイントに据えており、球際勝負であればJ1クラブに対しても決してひけをとらない。クラブの成り立ちもまた、実に対照的。今治は岡田オーナーの知名度と人脈でスポンサーを集めてきたのに対し、いわきFCはドーム1社からの莫大な投資を受けている(ちなみにドームいわきベースを含む設備投資には130億円もの資金が投入された)。
だが、両者の違いが最も明確なのは、Jリーグに対する考え方であろう。今治は、速やかにJクラブとなることが至上命題。昨シーズンに続いて今季もJFLで足踏みするわけにはいかず、これまでチームを率いてきた吉武博文監督を解任する決断を下している。これに対していわきFCは、「ウチは必ずしもJリーグを目指しているわけではない」とドームの安田秀一社長が明言。飛び級でのJFL昇格も考えていないようで、県2部から粛々とカテゴリーを上げて、今季ようやく東北リーグ2部にまで到達した。かように対照的な両チーム。チャリティーマッチとはいえ、両者が対戦するのは今回が初めてとなる。