不発に終わった「真逆のスタイル」対決  いわきFCとFC今治、それぞれの事情

宇都宮徹壱

両者の特長が「封印」された理由

前半終了間際の桑島のゴールで今治が勝利。期待していた「真逆のスタイル」が際立つことはなかった 【宇都宮徹壱】

 今治もいわきFCも、現在の体制となった当初からウォッチしてきた、思い入れのあるクラブである。いつか対戦する機会があれば、絶対に現場で見ておきたいカードであった。しかし試合が始まってみると、どうもイメージしていたものと違う。いわきFCはフィジカルを前面に押し出すスタイルではなく、きちんとパスをつないでいこうとする意図が明らか。逆に今治は、パスで相手をいなすシーンも見られたが、球際でもしっかり戦おうとしている。どちらも、これまでの「らしさ」を封印しているかのようであった。
 
 この試合唯一のゴールが決まったのは、前半44分。相手のパスミスを拾った今治の桑島良汰が、自ら持ち込んでネットを揺らした。後半になると、今治はどんどんメンバーを入れ替えていき、すっかりテストモードになっていく。対するいわきFCは、吉田知樹が個人技で二度のチャンスを作ったものの、それ以外は相手の攻勢を粘り強くしのぐのが精いっぱい。終わってみれば今治の貫禄勝ちであったが、それぞれの持ち味が発揮されない、いささか肩透かしにあったような試合でもあった。なぜそうなったのか。試合後の両監督のコメントから、その原因をうかがい知ることができよう。

「今日は相手どうこうでなく、自分たちのサッカーがどこまで通用するかを見てみたかった。去年までのウチは、勢いだけでやっていた部分がありましたが、今年は止めて蹴るという部分も含めて、1人1人が考えながらプレーすることを植え付けていこうと思っています」(いわきFC・田村雄三監督)

「(JFLの中断期間に)九州でキャンプを張っていました。Jクラブと練習試合をしながら1対1の強化を意識的にやりましたし、(この試合では)奪ってからのカウンターというのがテーマでした。実力的にはJFLレベルのいわきFCと対戦することで、それなりに成果はあったと思います」(今治・工藤直人監督)

 もしも去年、このカードが実現していれば、まさに「真逆のスタイル」が際立った一戦となっていただろう。しかし現在、いわきFCはフィジカル一辺倒からの脱却を図る過程にあり、今治はポゼッションに新たなオプションを増やすことを模索している。結果、両者の特長が半ば封印された形での試合内容となった。それでも今回、互いに意識する相手と手合わせできたことは貴重な経験となったはずだ。とりわけ、今季こそのJ3昇格を目指す今治にとって、いわきFCの充実した施設や地元での人気ぶり(この日の入場者数は2241人)は大いに刺激になった様子。この経験をぜひ、今後の戦いへの糧としてほしいところだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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