攻撃的なチーム同士のきっ抗したゲーム 天皇杯漫遊記2018 FC琉球対FC今治

宇都宮徹壱

今年の天皇杯は何が変わった?

今年の天皇杯は5月最後の週末に開幕。これから7カ月にわたって長い戦いが始まる 【宇都宮徹壱】

 7年ぶりに訪れた沖縄は、すっかり真夏の日差しになっていた。当地を訪れるのは3回目。いずれも旅行やレジャーではなく、前回はJFL、前々回は地域決勝の取材だった。そして今回は天皇杯1回戦の取材。当地では5月26日に沖縄県総合運動公園陸上競技場(県総)にて、沖縄県代表のFC琉球と愛媛県代表のFC今治が対戦する。那覇空港で見上げる空は、本州とは明らかに異なる彩度の高いブルーが広がっていた。

 さて、沖縄の風物を楽しむ前に、今年の第98回天皇杯で何が変わったのか、簡単に解説しておこう。過去3大会(95回〜97回)で使用されていた、漫画『GIANT KILLING(ジャイアントキリング)』のビジュアルイメージから一転。出場チームの写真を下地にして、「98」と「天皇杯」の文字が金文字で描かれている。今年のスローガンは「その挑戦で歴史を変えろ」だが、より注目したいのが今大会の正式名称が「天皇杯JFA 第98回全日本サッカー選手権大会」となっていること。昨年11月にJFA(日本サッカー協会)主催の大会には、すべての名称に「JFA」の文字が加えられることになったためである。

 日程についても注目すべき変更があった。前回大会は開幕(1回戦)が4月22日と23日で決勝は1月1日。しかし今大会は1回戦が5月26日と27日、決勝は元日ではなくクリスマス・イブの12月24日に開催される。これは来年1月、アラブ首長国連邦(UAE)で開催されるアジアカップへの準備期間を設けるための措置である。その間の日程を見ていくと、2回戦と3回戦はJリーグがワールドカップ(W杯)中断期間中となる6月6日と7月11日、4回戦が8月22日、準々決勝が10月24日、準決勝が12月16日となっている。

 1回戦に登場するのは、47都道府県代表にアマチュアシードチームの流通経済大学(全日本大学サッカー選手権大会優勝)を加えた48チーム。都道府県予選にはJ3クラブも参加するが、福島ユナイテッドFC、アスルクラロ沼津、藤枝MYFC、SC相模原、ギラヴァンツ北九州が予選敗退となっている。最多連続出場は、19年連続21回目出場のガイナーレ鳥取(鳥取)。初出場は流通経済大学ドラゴンズ龍ケ崎(茨城)やテゲバジャーロ宮崎(宮崎)など7チーム。この1回戦を勝ち上がった24チームに、J1・J2の40チームを加えた64チームが、2回戦を戦うことになっている。

唯一の夜開催となった沖縄での試合

クラブ設立15周年を迎えた琉球。今治に対して昨年のリベンジを果たしたいところ 【宇都宮徹壱】

 キックオフ1時間前、会場の県総に到着。受付で今年のパンフレットをもらい、早速都道府県代表の集合写真と登録メンバーリストをチェックする。だが、すでにこの時点で9チームの1回戦敗退が決まっていることを思い出し、いささか奇妙な気分になった。実は1回戦の24試合で、この琉球対今治だけが唯一のナイトゲームとなっている。FC大阪(大阪)対徳山大学(山口)が14時開始で、残りの22試合はすべて13時キックオフ。沖縄だけが夜開催となったのは、県総で16時まで中学の陸上大会があったためだ。よって大会終了後3時間で、主催者はもろもろ準備を済ませなければならない。

 こうしたケースは、J3のホームゲームでも年に数回あるという。他競技団体との調整に加えて、県総は沖縄市にあるため、那覇市内からバスで1時間20分とアクセスも良くない。県内には鉄道がなく、公共交通機関も限られているとなれば、集客に影響が出るのは必定である。琉球の昨シーズンの平均入場者数は、J3の17チーム中8位の2508人。首位の北九州の5939人に比べると半分以下の数字だ。そんな背景もあって現在、那覇市内にJ1基準の球技専用スタジアムを作る計画があるという。2万人収容で地上6階建て、総事業費は178億円が見込まれ、2023年の完成を目指しているのだそうだ。

 さて、今回対戦する両チームについて言及しておこう。ホームの琉球は、天皇杯は9年連続12回目の出場。これまでの最高成績は、県1部時代(04年)と九州リーグ時代(05年)の3回戦出場である。03年にクラブが設立されて、今年で15周年。元日本代表監督のフィリップ・トルシエが総監督に就任したり(08年)、元日本代表の我那覇和樹がプレーしたり(11〜13年)、さまざまな話題があった一方で、クラブの経営権がたびたび譲渡されるなど苦難の時代もあった。今季は元日本代表の播戸竜二が完全移籍。出場時間は限られているが、J3では10試合に出場して2ゴールを挙げている(第10節終了時点)。

 対する今治は10年連続10回出場。天皇杯での最高成績は12年の3回戦で、この時は2回戦でサンフレッチェ広島を2−1で破っている。もっともこの輝かしい戦績は、岡田武史オーナー体制となる以前のもの。以降は、2回戦でJ2以上のクラブと対戦することが目標となっている。JFL2年目となる今季は「J3昇格」を至上命題としているものの、ファーストステージは10試合を終えて5勝2分け3敗の4位。来週末には首位のHonda FCとのアウェー戦が控えており、この試合をどのように位置付けているか気になるところだ。ちなみに、前回の天皇杯1回戦も同じカードが組まれ、この時は5−5の打ち合いからPK戦(5−3)で今治が勝利している。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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