インハイ準優勝・桐光学園の10番が輝く 「5人抜きゴール」の西川潤が残した衝撃

安藤隆人

壮絶な戦いになったインターハイ決勝

インターハイで大きなインパクトを残した桐光学園の10番、西川潤 【安藤隆人】

 三重県の高校総体(インターハイ)は、山梨学院(山梨)の初優勝で幕を閉じた。13日の決勝は桐光学園(神奈川)との関東決戦となり、共にプリンスリーグ関東に所属して、お互いの手の内を知り尽くした者同士の一戦となった。

 試合は壮絶な展開となる。先制したのは桐光学園だった。21分、MF中村洸太が右からクロスを入れると、中央でFW西川潤が強烈なヘディングシュートをたたき込んだ。試合はこのままのスコアで進んだが、後半アディショナルタイム5分に、山梨学院はカウンターからFW宮崎純真が起死回生の同点弾を決めた。両チームのエースストライカーがゴールを挙げ、1−1の延長戦に突入した試合は、75分、左サイドを突破した宮崎のクロスが相手のオウンゴールを誘発し、山梨学院が逆転。これが決勝点となった。

 1週間で6試合という過酷な連戦だった今大会を振り返る上で、「最大のインパクトは何か?」と聞かれたら、「西川潤」と答える人は多いだろう。特にサッカー関係者はそう口にするはずだ。それほど、この2年生FWは三重の地で強烈な輝きを放っていた。もし桐光学園が優勝していたら、今大会は「西川潤の大会」となっていたはずである。

「もう自分が主役でやらないといけないと思って、今大会に挑んでいます」

 この覚悟は本物だった。初戦の一条(奈良)戦でPKを決めて今大会初ゴールを挙げると、2回戦の習志野(千葉)戦、3回戦の明秀学園日立(茨城)戦はチャンスメークでの活躍。続く準々決勝の富山第一(富山)戦では圧巻のプレーを見せた。

 開始早々の5分に先制点を挙げると、2−0で迎えた前半アディショナルタイム4分に驚愕のゴールが生まれた。センターライン付近で、加速に入った状態でボールを受けると、細かいボールタッチとボディシェイプで立ちはだかる2人のDFの間にトップスピードで潜り込む。右からカバーに入ったDFのタックルを軽やかにかわし、さらに左から来たDFも身体のキレでかわしてGKと1対1に。少しゴールから逃げるようなコース取りだったが、無理にシュートを打たず、もうワンタッチを入れて飛び込んできたGKもかわした。あとは「ずっと練習をしてきた」と言う利き足ではない右足で、正確にゴールへとボールを流し込むだけだった。

 ハーフラインから、GKを含めると5人抜きゴール。このゴールは間違いなく、今大会のベストゴールと言えるほどすさまじいものだった。これで勢いに乗った西川は、68分にMF佐々木ムライヨセフのクロスを沈めて、ハットトリックを達成。続く準決勝の昌平戦でも1−0で迎えた42分に、左サイドバックの金子開研から縦パスが出ると一気に加速して、相手のセンターバックである関根浩平の前に出ると、そのまま置き去りにしてGKとの1対1を冷静に制した。そして、前述したように決勝でも1ゴール。得点ランキング2位となる6ゴールで、大会を終えた。

 富山第一戦のあの5人抜きゴールを見た関係者の多くは、西川が「さらに覚醒した」と思っただろう。筆者もその1人だ。「さらに」という言葉を付け加えているのは、もともと彼は今大会でも「最大の目玉」の1人であったからだ。

横浜F・マリノスのユースを断って高校サッカーへ

インハイ決勝で山梨学院に逆転負けを喫し、桐光学園は優勝ならず 【安藤隆人】

 横浜F・マリノスではジュニアユースのときからエースとして君臨し、年代別代表にも名を連ねていた。当然のようにユース昇格を打診されたが、同じ横浜FMジュニアユースから桐光学園に進学した3学年上の兄・公基(現・神奈川大)の後を追うように桐光学園へと進んだ。

「環境を一変させることで、自分に足りないハングリーさや『自主性』などを身につけたかった。自分に甘えずに、厳しい環境で自分を鍛えたかった。兄がフィジカル的にも精神的にも強くなっていく姿を見て、自分もそうなりたいと思った」

 覚悟を持って高校サッカーの門をたたいた彼は、1年時から小川航基(現・ジュビロ磐田)の後を引き継ぐ形で10番を託され、不動のエースとなった。しかし、昨年は彼が求めていた力強さは足りていなかった。

 それでも、「素材はとんでもないものを持っている。だからこそ、長所を消さないように慎重に、かつ厳しいところはしっかりと厳しく接しないといけない」と語る鈴木勝大監督の熱い指導を受け続け、さらに今年に入るとU−16日本代表では熱血漢で知られる森山佳郎監督からも熱のある指導を受けた。

「鈴木監督も森山監督も、共通するのは非常に熱い男という部分。でも、2人ともアプローチなどが違って、本当に良い指導者に巡り会えたと思っています」(西川)

 2人の熱血指揮官に育てられたことで、今年に入って彼は急激に伸びた。ドリブルのキレ、破壊力が格段に向上したのだ。ボールを持ったら臆することなく仕掛ける。昨年までは、仕掛けの場面で、冷静なときとそうでないときのドリブルの質に明らかな差があった。冷静ではないときは、ただ目の前の相手を抜くことばかり考えてカバーに引っかかったり、シンプルにやるべき場面で仕掛けてしまったりするシーンが目についた。

 だが、今年は徐々にそうしたプレーが少なくなり、インターハイでは常に効果的なドリブルを繰り出した。そして、守備面でも相手ボールになった瞬間の攻から守への切り替えの早さが飛躍的に向上。以前は、厳しい言い方をすればドリブル一辺倒だった。だが、そこに攻守のバランス、オフ・ザ・ボールでのポジショニング、スプリントのタイミングと方向性など、緻密な駆け引きと状況判断によるメリハリが生まれ、よりドリブルという最大の武器の破壊力が増したのだった。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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