インハイ準優勝・桐光学園の10番が輝く 「5人抜きゴール」の西川潤が残した衝撃
衝撃の「5人抜きゴール」はこうして生まれた
決勝で積極的にゴールへと迫る桐光学園の西川 【写真は共同】
「視野が広がったというか、より相手が自分に何をしてくるかが分かるようになってきた気がします。相手がこっちに動いたから逆を行こうとか、その判断が自分の中で早くなった気がします。あのゴールシーンも『相手が右に寄ったら、空いている左へ』を連続してできた。スピードに乗った状態のまま相手の逆、逆をたどっていくことができました。相手の動きから情報を得て、すぐに選択ができました」
技術的な成長の裏には、精神的な成長もあった。
「(横浜FMのユース昇格を断って)高校サッカーに入ったことに対して、周りから正直厳しい声もありました。でも、そこは気にしていません。批判やいろいろな意見、思いはあると思いますが、自分の人生なので、周りに何と言われようが自分のための決断をしました。
それに、ここで失敗をしたら『それ見たことか』と言われると思うので、それが逆にバイタリティーというか、『なにくそ』と思えてやれている。そこはモチベーションになっています。いま思うと、昨年はその思いがまだ薄くて、ジュニアユースの延長線上でプレーしていたと思います。強くなるためにここに来たのに、背負うものというか、責任感、自覚、すべてが足りなかった。
でも、今年は『こんなんじゃダメだ』と強く思ったし、自分が責任感を持ってチームを引っ張っていかないと誰もついてこないし、信頼してくれないと思ったんです。インターハイでも、チームが苦しいときにピッチで『自分は何をすべきか』をすごく考えたし、むしろ『俺はこんな状況のときに一体何をやっているんだ!』と自分自身に喝を入れていました。どんな形でもいいからマイボールにして、ゴールにつなげようと思えました」
「この選択をして良かったと胸を張って言える」
Jクラブも注目の西川は、銀メダルの悔しさを胸にさらなる成長を目指す 【安藤隆人】
「なんとかしないといけないと、ずっと思っていた」。西川は、61分に左サイドでドリブルを仕掛ける。これは相手DFに引っかかり、ボールを奪われてしまった。だが、この直後だった。西川は猛然とそのDFに襲いかかり、すぐさまボールを奪い返し、そのままトップスピードで縦にドリブルを開始したのだ。寄せてきたDFをワンフェイントでかわすと、一気に進路を横に変えてペナルティーエリア内に進入し、ニアでフリーになっていたMF田中彰真へ正確な折り返し。冷静に田中が決めて、これが決勝弾となった。
「昨年までの自分だったら、奪われた時点で『ああ、仕方がない』と思ってそのまま歩いてしまったり、後ろに任せて『次(ボールが)きたらきちんとやろう』と思うだけだったのですが、今は『何が何でも奪い返す』と思えるし、自然と身体が動くようになった。あのアシストはこの選択(桐光学園に入学したこと)をして良かったと胸を張って言えるプレーだと思います」
かくして「さらなる覚醒」の時を迎えた桐光学園のナンバー10・西川潤。彼の放つ彩りに魅了されたのは、サッカー関係者だけでなく、観客もそうだった。スタンドでは彼が仕掛けると歓声が上がり、サッカー少年たちも「あの水色の10番すごいね」と興奮気味に話しているくらいだった。
「チームを勝たせる1点を獲るチャンスがあったのに決めきれず、本当に悔しいです。これをバネに、冬に向かって頑張りたい」
間違いなく、Jクラブによる獲得レースはすさまじいものになるであろう。それを確信させるインパクトを残し、西川潤は真夏の三重を去っていった。悔しい銀メダルとともに――。