悲願のG1制覇を狙うプログノーシス、高松宮記念覇者マッドクールら日本馬8頭が参戦 香港チャンピオンズデー3レースを展望

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昨年2着の雪辱を期すプログノーシス 【Photo by Getty Images】

【クイーンエリザベス2世カップ】3連覇を狙うロマンチックウォリアーが中心も、道悪なら逆転候補も多士済々

今年のクイーンエリザベス2世C(QE2C)は史上初の3連覇に挑むロマンチックウォリアーをめぐる戦い。出走11頭のうち、日本のヒシイグアスとプログノーシスを含む7頭が昨年12月の香港Cでも対戦しているが、週末まで続くという不安定な天気が曲者。当時は不在だった名うての道悪巧者も加わり混迷の度合いを増している。

実績からも良馬場なら断然の主役となるロマンチックウォリアーだが、豪州遠征のターンブルSで稍重の経験が1戦あるだけ。次戦に大目標のコックスプレートを控え、5か月ぶりの休み明けと結果(4着)は参考にならない。それ故に道悪は未知数も、当時は道中の行きっぷりなどレース内容も悪くなく、極端に悪化しない限りこなせそうな印象はある。

もしロマンチックウォリアーが道悪に苦しむようなら、これまで苦杯をなめさせられてきたプログノーシスには一矢報いる好機。昨年の札幌記念は発表こそ稍重だが、直線では馬群が縦に長く伸びる巧拙の分かれる馬場状態だった。その中で抜群の手応えから4馬身突き抜けた内容は強烈。最後方から追い込み及ばなかった香港での過去2戦より、道悪でペースが落ちる分だけ追走も楽になるかもしれない。

対照的なのはヒシイグアスで、その札幌記念では5着ながらプログノーシスに約8馬身差をつけられた。過去に2勝と得意にしてきた前走の中山記念も稍重で11着に沈み、当時の鞍上も馬場を敗因に挙げている。ノースブリッジは重馬場でエプソムCを勝っているが、レース中に陽が差し、4着のジャスティンカフェが上がり最速の33秒5を記録という馬場状態だった。先行力があるのは魅力で、父モーリスは香港で3勝、母の父アドマイヤムーンも2007年のQE2Cで3着という血の力に期待したい。

3連覇を狙うロマンチックウォリアー 【Photo by The Hong Kong Jockey Club】

ストレートアロンは香港Cでヒシイグアスとプログノーシスの間に割って入り4着。移籍前の豪州では不良馬場でG3勝ち、香港に移籍後も昨年5月に重馬場のG3クイーンマザーメモリアルCでG3勝ちと、道悪が得意なファストネットロック産駒らしい実績を残している。9月のシーズン開始から今回で10戦目、しかもドバイ遠征帰りのスケジュールが課題だが、状態を維持できていれば怖い存在となる。

香港Cでプログノーシスに1馬身半差(6着)のソードポイントは、クイーンマザーメモリアルCでストレートアロンに約1kgのハンデをもらいクビ差の2着。香港C前哨戦のジョッキークラブCでも同馬に3/4馬身差の2着と力量が近い。移籍前の豪州では重馬場のG2で3着があり、プログノーシスとしても油断できない相手だ。

香港Cで7着のニンブルニンバスはソードポイントと1馬身3/4差。陣営は道悪に自信を見せているものの、上位入線の香港勢も道悪が割引にならないだけに、まとめて負かすまでは難しそうだ。ファイブジーパッチやハッピートギャザーにも同様のことが言える。

英国から遠征するドバイオナーは道悪でこそのタイプ。まとめて負かすというなら、この馬を置いて他にいない。シャティン競馬場の2000mは今回で3戦目。昨年のQE2Cではロマンチックウォリアーに2馬身1/2差の完敗(3着)だったが、プログノーシスとは1/2馬身差しかなかった。道悪なら逆転の希望も大きくふくらむ。

もう1頭、香港ダービー馬のマッシヴソヴリンはアイルランドからの移籍馬だが、クールモアの所有でA.オブライエン厩舎からデビューという名門の出身。通算7戦で唯一の連逸を道悪で喫しているものの、10か月半の休み明け、それもデビュー2戦目というものだった。ノーネイネヴァー産駒には道悪巧者が多く、その1敗だけで決めつけるのは危険。ロマンチックウォリアーがそうであるように、ダービーとQE2Cの連勝は名馬への登竜門となっており、実現すれば香港の中距離路線が一段と厚みを増すことになる。

豪州からの転戦となるオオバンブルマイ 【Photo by Getty Images】

【香港チャンピオンズマイル】ゴールデンシックスティが4連覇へ、栄光のキャリアを偉業で締めくくれるか

約1か月後に安田記念が控えていることもあり、日本調教馬の参戦が少ない香港チャンピオンズマイルだが、今年は8年ぶり、それも一気に3頭の遠征で盛り上げにひと役買う。ただし、その前に立ちはだかるのは香港に君臨してきた史上最強のマイル王ゴールデンシックスティ。この一戦に4連覇の大偉業を懸け、引退レースとなることも既定路線となっており、勝利で花道を飾れるかが最大の焦点となる。

ゴールデンシックスティにとって気懸かりな材料があるとすれば、レース当日まで悪天候が予想される現地の空模様。通算30戦のキャリアのうち29戦は良馬場、残り1戦は稍重(Yielding)と道悪の経験がほとんどない。その稍重は2022年の香港ゴールドCで結果は勝ち馬に5馬身半差をつけられての3着というものだが、ベストより長い2000mで道中並走の勝ち馬よりロスの多い後半と敗因は明確。姿勢を崩すことなく長く脚を使えており、隙が生じるとすれば馬場状態というだけで、それも杞憂に終わらせる可能性が高いのではないか。

わずかな可能性に乗じたいのが日本の3頭。オオバンブルマイの前走は不良馬場で13着の大敗も、馬群に包まれてほとんど追えなかった面が大きい。道中の走りは至ってスムーズで、D.レーン騎手も馬場状態より進路を敗因に挙げており、19頭立てから11頭まで減る今回はリスクも軽減できる。あとは豪州からの転戦で体調を維持できているかだろう。

また、シャンパンカラーのNHKマイルCは稍重で、例年より1秒ないし2秒遅い走破タイムだった。田中剛調教師も渋った馬場向きの評価をしている。今年はダートや短距離に挑戦して大きな着順を続けているが、実績のある芝1マイルで天の恵みも受け、復活の狼煙を上げることも。一方、前走の中山記念で完敗のエルトンバローズは鞍上が稍重の馬場状態を敗因に挙げており、天気予報の通りだと苦しい戦いを免れそうにない。

4連覇が懸かるゴールデンシックスティ 【Photo by The Hong Kong Jockey Club】

打倒ゴールデンシックスティの筆頭格は香港マイルで2着に続いたヴォイッジバブル。当時はナミュール(3着)に先着しており、この馬を日本勢が負かすには、少なくともナミュールに匹敵する実力が必要ということになる。ただし、今回はドバイからの遠征帰り。調整時間が不足しているだけに、日本勢に少なからずチャンスもあるはずだ。

ビューティージョイは昨年の香港チャンピオンズマイルでゴールデンシックスティから1馬身半差の2着、同じ馬主のビューティーエターナルは1月の香港スチュワーズCでヴォイッジバブルから1馬身1/4差の2着。両馬は調教師こそ異なるものの同じレースに出走する機会が多く、着順も前後に並ぶことが多い。これらとともにオオバンブルマイはレーティング116で3位タイの評価を受けている。

香港ダービー2着から挑むギャラクシーパッチは、前々走のクイーンズシルバージュビリーCでカリフォルニアスパングルから1馬身差の2着と、古馬のG1級に目途を立てている。当時はレッドライオン(3着)、ビューティーエターナル(4着)とタイム差なし、レッドライオンは前走のチェアマンズトロフィーでビューティージョイ、ビューティーエターナルに続く3着。それぞれの関係にほとんど差はなく、1年前のハンデ戦ではレッドライオンが14ポンド(約6.35kg)をもらい、ビューティーエターナルを1馬身3/4差の2着に下した。当時の馬場状態は稍重(Yielding)で、この2頭は道悪の適性も証明済みだ。

英国のブレーヴエンペラーは今回がG1初挑戦だが、直近3走はドイツ、イタリア、そして前走のカタールで重賞3連勝中。相手関係は微妙だが、遠征経験が豊富で結果も出している点は評価に値する。イタリアとフランスでは重馬場で重賞勝ちと道悪も問題にしない。香港や日本の馬たちに道悪経験が少ないだけに、台風の目となりそうな不気味さを漂わせている。

高松宮記念の覇者マッドクール 【Photo by Shuhei Okada】

【チェアマンズスプリントプライズ】地元の上位勢力は海外遠征帰り、臨戦過程が有利な日本勢に初制覇の好機

2016年のG1昇格と歴史が浅いこともあり、香港チャンピオンズデーのG1レースで唯一、日本調教馬の優勝がないチェアマンズスプリントプライズだが、今年は千載一遇のチャンスかもしれない。前年の覇者で現役最強のラッキースワイネスが故障で戦線離脱し、代わりを担うカリフォルニアスパングルとビクターザウィナーはともに海外遠征帰り。日本から挑むマッドクールとサンライズロナウドは臨戦過程に余裕があり、ライバルたちの地の利を相殺可能な関係にある。

出走メンバーの中でG1勝ちの実績があるのはカリフォルニアスパングルとビクターザウィナー、リトルブローズ、そしてマッドクールの4頭だが、このうちリトルブローズは豪州で2歳時に記録したもの。それが最後の白星で今回は6カ月半の休み明け、香港移籍初戦の上に2歳戦が盛んな豪州で活躍済みと成長力の点でも不透明な面がある。

実績的にはスプリント路線に転じて再生したカリフォルニアスパングル、3か月前のセンテナリースプリントCでラッキースワイネスを封じたビクターザウィナーが地元勢をリードしている。ただし、両雄は3月末の海外遠征からの帰国初戦で調整が難しい。カリフォルニアスパングルはレーティング123で実力的に頭ひとつ抜けており、状態に問題がなければあっさり決めても不思議はないものの、3月10日からドバイ遠征を挟んで3戦目、しかも香港においてはシーズン終盤というタイミングだけに回復できているか。

ビクターザウィナーは前走で高松宮記念に参戦し、マッドクールから3馬身余りの3着に敗れた。敵地に乗り込んだ上に道悪と条件は厳しく、結果としては善戦の評価もできるが、今回は香港と日本の往復を経ており、片道で臨む日本勢より負担は大きい。香港スプリントではマッドクールに先着したが、当時のマッドクールはデビュー戦並みに体重を減らしていた。それ以来の高松宮記念は18kg増の馬体重で勝った上に今回は叩き2戦目。前回の経験と合わせてマッドクールには上がり目がある。

G1・2連勝中のカリフォルニアスパングル 【Photo by Getty Images】

また、現地の天気予報では週末まで雨混じりの天気が続くらしく、今年は天候も日本勢に味方しそうだ。マッドクールは高松宮記念を含め重馬場でオープン2勝と道悪を苦にせず、サンライズロナウドには道悪での勝ち鞍こそないものの阪急杯の小差3着がある。スプリント路線に転向して経験が浅いサンライズロナウドにとっては、良馬場のスピード勝負よりも時計を要す条件が助けになるはず。中距離で培ってきたスタミナも生きるだろう。

英国のビリービングにはG1スプリントCで勝ち馬から1馬身圏内(3着)、重馬場でG3勝ちの実績がある。直線競馬が主体の欧州勢は香港スプリントで苦戦してきた歴史があるが、この馬の場合はオールウェザー戦ではあるものの、コーナーのあるコースで好成績を収めている。先行力があるのも魅力で、強敵相手にコーナーを克服できれば見せ場を作れるかもしれない。良馬場の経験しかなく、ドバイでレコード勝ちするほどのカリフォルニアスパングルが道悪を苦にするようなら、先行勢には一段とチャンスも広がるだろう。

香港スプリントで2着に激走し、マッドクールやビクターザウィナーに先着したラッキーウィズユーにも注意が必要だが、前走の9着(G2スプリントC)の敗因について、鞍上が雨により良馬場の発表より重くなった馬場を挙げている。レース当日の馬場状態によっては再び苦しい戦いになりそうだ。

その裏返しとして、ラッキーウィズユーに先着したインビンシブルセージ(2着)、フライングエース(3着)、ハウディープイズユアラブ(4着)には引き続きチャンスがあるか。インビンシブルセージとフライングエースのD.ホール調教師は今回の相手関係で格下と認めつつも、道悪適性には自信を見せている。ムゲンは条件クラスからの挑戦でレーティングも大きく見劣るが、香港スプリントのラッキーウィズユーも同様の状況だった。地元の上位勢に隙も見える今回は、思わぬ波乱を演出する可能性もあるだろう。

(渡部浩明)
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