史上最高の「ママっ子」、J・テイタム セルティックスの躍進を支える驚異の新人

佐々木クリス

若手が台頭するセルティックス

NBAプレーオフで躍進するセルティックスでは、ジェイソン・テイタム(中央)ら若手が台頭している 【Getty Images】

 NBAプレーオフに緑色の旋風が吹き荒れている。「未来のチーム」とファンからは形容され、カイリー・アービング、ゴードン・ヘイワードを中心としたチームがチャンピオンシップに絡んでくる2〜3年後の未来は、ボストン・セルティックスファンにとって待ちきれないものとなるはずだった。

 しかし、その「待ちきれない瞬間」が実は今だったのかと思わせるほどのセルティックスの躍進は、イースタン・カンファレンスのディフェンディング・チャンピオンであるクリーブランド・キャバリアーズと、レブロン・ジェームズに対してカンファレンス決勝を2勝0敗(カンファレンス決勝2試合終了時点、以下スタッツも同様)ととどまることを知らない(編注:現地時間21日時点で2勝2敗と五分に戻された)。

 レギュラーシーズン中は、失点率が最も低いチームとしてディフェンスを最大の武器に戦ってきた。得点効率では18位と平均以下に甘んじていたが、逆転試合も多く、接戦にさえ持ち込めばアービングがビッグプレーを決めてみせるのがひとつのパターンであった。

 そんなセルティックスにあって、シーズン終盤にアービングの全休が発表されてからのテリー・ロジアー(3年目)、ジェイレン・ブラウン(2年目)、ジェイソン・テイタム(1年目)といった若手のここまでの台頭を誰が予想しただろうか。

 ミルウォーキーとのタフな7戦を勝ち上がるとカンファレンス準決勝では一時イーストで最強チームではないかと言われていたフィラデルフィア76ersを5戦で退けてみせた。期待を寄せながらも、これほどのインパクトを予見できたファンは少ないはずだ。

 なんとプレーオフで50分以上共に戦う5人組として、ロジアー、テイタム、ブラウン、マーカス・モリス、アル・ホーフォードの5人は共にコートに立ってきた84分で121.3という100回の攻撃権辺りの攻撃を見せている。「ハンプトンズ5」と騒がれるウォリアーズの5人組を若干ではあるが上回っているのである。

ルーキー離れしたルーキー

 今季のNBAはルーキー豊作の年と言われ、あのレブロン、ドウェイン・ウェイド、カーメロ・アンソニーを含む2003年ドラフト組以来の当たり年とも言われている。

 レギュラーシーズンを通じて新人王争いの最先端にいたシクサーズのベン・シモンズ、ユタ・ジャズのドノバン・ミッチェルはプレーオフでも話題の中心で、多くのハイライトに登場した。しかし、今もチームの主力としてプレーオフに生き残っているのはセルティックスのジェイソン・テイタムだ。

 球団内ではポール・ピアース以来、新人として開幕戦先発を任されたテイタム。彼の強心臓ぶり、成熟度はこのプレーオフでさらに効力を発揮している。

 こちらの数字は1試合あたりのテイタムによるドライブ数のレギュラーシーズン、プレーオフ比較だ。

・レギュラーシーズン
5.7回(チーム4位)、FGA2.9本、FG44.9%、3.6ppg(同2位)
・プレーオフ
10.9回(同1位)、FGA5.1本(同1位)、FG47.2%、5.7ppg(同1位)
※ppg=Points Per Game(1試合の平均得点)

 更にこちらはアイソレーション(1対1)の機会をどれほどもらっているかのデータだが、

・レギュラーシーズン
1.4回(同3位) 0.82ppp 1.2ppg(同3位)
・プレーオフ
3.8回(同1位) 0.86ppp 3.3ppg(同1位)
※ppp=Points Per Possession(得点効率)

 アービングという絶対的エースを欠きチームが打開策を求めたとき、テイタムがその扉を開けている。しかもドライブは2倍近く、アイソレーションは3倍に届く増加ぶりだ。

特筆すべきはそのクラッチぶり

 そんなテイタムは「素晴らしい気持ちさ。こういった瞬間のために、シーズンを通じてチームメートとコーチ陣の信頼を勝ち取ろうと必死にやってきたのだから」と今与えられている役割と大きくなる責任を受け止めている。

 カンファレンス準決勝のシクサーズとの戦いでも、試合終盤にライバル・シモンズに対するドライブを見せていたが、チームのカンファレンス決勝進出を決定付ける象徴的なプレーともなった。

 それでも開幕当時を「シーズンを始めるにあたって、何を期待していいのかは分からなかった。今のメンツよりチームの顔ぶれはだいぶ違ったからね。こんなことは想像もしていなかった」と謙虚に振り返る。

 しかし、テイタムのクラッチ(=重要な局面で良い働きをする)ぶりはなんら秘密ではないのだ。レギュラーシーズンを通じて信頼を勝ち取ろうとしたとの言葉通り、試合時間残り5分を切り、5点差以内の接戦で50本以上シュートを今季レギュラーシーズンで放った選手のうちナンバー1となるフィールドゴール決定率の59%(30/51)を残してきている。この事実を考えると、知将ブラッド・スティーブンスも安心してボールを託せるということになるだろう。

 ヘイワードがけがをした2017−18シーズンの開幕戦。振り返れば2年目の有望株ブラウン(彼もまたプレーオフでの躍進が目覚しい)ではなく、チームが最初からテイタムを先発に据えていた事実は何か関係があるのだろうか。17年のドラフト3位だったテイタムだが、チームのダニー・エインジGMは、たとえ1位指名権を有していてもテイタムを指名するつもりだったと公言しており、球団は彼のスター性にかけていたことは間違いないだろう。

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