リング周りの覇者ジェフ・ギブス 連覇を狙う栃木ブレックスの秘密兵器

佐々木クリス

リバウンドの強さは数値に表れるも……

【(C)B.LEAGUE】

 攻撃権の覇権争い、時にポゼッション・ゲームと言われるバスケットボールのせめぎ合い。文字通り相手より攻撃回数で上回ることで、勝機を大きくするためにリバウンドの支配が勝敗に大きな意味を持つ。

 特に1度目のシュートを外したとしても、すぐに第2のシュートに持ち込めるオフェンス・リバウンド(ORB)は相手への精神的ダメージも大きい。去年5月の代々木のコート(=ファイナル)でもブレックスは3Qを通じてORBを抑えられながら、4Qにせき止められたダムが決壊するかのように川崎を飲み込んで初代チャンピオンをつかみ取った。

 ブレックスは今季逆境に立たされている。ORB同様に攻撃権の数に直結する味方と相手のミス(ターンオーバー)の差で、必ずしも昨季ほどの開きを作れていないのだ。その一方で、昨季の1試合あたり5本の差からは低下しているものの、ORBは未だにシーズンを通じて3.5本分の違いを生み出している。その数はリーグ1の12.9本、与える数は2番目に少ない9.4本だ。

 チャンピオンシップ(CS)全ての試合で、シュートの「質」で相手を上回ることをディフェンディング・チャンピオンに望むのは現実的ではない。ならば絶対的な「量」の勝負に持ち込むことが連覇への鍵だ。

 CSに進出したチームとの対戦でも変わらぬORBの強さは出場8チームの中で最多となる12.2本を記録し、相手を最小の9.4本に抑えている。その一方で残念ながらCS出場チームとの直接対決25試合では勝率32%と、名古屋ダイヤモンドドルフィンズに次いで低く留まっている。しかし、チームには誰もが知る「秘密兵器」がいる。

ギブス復帰とともにチームも好調に

 昨季のファイナルで陰のMVPであったジェフ・ギブスだ。不運にも試合終了直前にアキレス腱を断裂、試合の残り数秒と歓喜の瞬間をベンチ脇で横になって応急処置を受けながら迎えると、会見場には松葉杖で現れ取材陣を驚かせた。伝説の英雄ヘラクレスが命取りになったのと同じく、バスケットボール選手にとってアキレス腱断裂は選手生命にも関わる大けがで、全盛期の運動能力が戻ることはないと言われる。

 連覇を期待されながら彼を欠いた今季の栃木はスタートにつまずき、ヘッドコーチ(HC)の交代も経験した。それでも田臥勇太やライアン・ロシターといったリーダーを筆頭に戦い続ける彼らには、「勝負はジェフが戻ってから」という思いがあっただろう。ギブスは苦しいリハビリに耐え、驚異的な回復力で予定を大幅に前倒して復帰してみせた。外側からは風前の灯火にも見えたCSへの道のりは、ギブスが先発に据えられた1月18日から始まったと言っても過言ではない。静かに、ただ確実にチームは上昇気流をつかんだ。ORBと同じように1つずつ。

 ジェフは公称188センチだが、実際は183センチの選手と同じくらいにしか見えない。かつてはアメリカン・フットボールでも全米プロリーグからドラフト指名を受けたと言うその類いまれなる足腰の強さと体格は、身長では計れない。肩幅、そして213センチとも言われる両手を広げた先から先までの距離(ウィングスパン)にこそ現れている。

 今季ORBを奪った直後にボールを再びリングに流し込むプットバックの回数は50回。CS出場8チームの中で50回以上このようなシュートを放っている選手は11人だが、ブレックスには97回のロシター、76回の竹内公輔もいる。いかにORBが彼らの大きな攻撃の「選択肢」かが分かるはずだ。ただそんなチームにあってもギブスの決定力は突出しており、11人中1位。Bリーグの平均的プレーヤーが2本のフリースローを放つのと同じくらい期待できる値(1.5PPP=Points Per Possession)となっている。だからこそ今季はフィールドゴール(=フリースロー以外によるシュート)成功率、2ポイント成功率で共にチームトップの数値を彼が残していることもうなずける。

存在感はスティールにも表れる

 ボールを片手で軽々とわしづかみできてしまうギブスは、飛び上がった空中でも片手でボールを動かし、見たこともない動きをみせる。時に空をも飛んでいるようだ。長く伸ばした両手もまた鷲の翼のように大きい。その威圧感は、守備でも相手が近づくことすら躊躇(ちゅうちょ)させる。リング周りでの最大の防御はブロックの数ではなく、シュートを放つことすら諦めさせる「抑止力」だろう。

 そういった意味でスティールでも高い数値を残すギブスは、相手の起点となる小柄な選手のピック&ロールも潰せる存在だ。うかつに彼の前でドリブルを突こうものなら、数秒後には逆コートでダンクをたたき込む彼の背中を眺めることになる。次に同じ状況が起きても侵入を試みる気持ちは失せてしまい、最後には戦意すら奪い取るだろう。

 今季のBリーグで最も平均スティールが多いのは千葉ジェッツのマイケル・パーカーの1.8本だが、1試合あたりのスティール数を30分間の出場換算で計算するとパーカーが2.1本、ギブスは2.23本となる。

 相手から攻撃権を奪い去り、勢いで飲み込むORBにスティール。いずれも高確率のシュートにつながるプレーだが、計上される2点や3点以上の価値がある。コート上のHC、田臥が目となり耳となり、破裂させるほど強烈にギブスがボールに爪を立てる。彼に奪えないボールはない。あくまでも自分たちはチャレンジャーと言い切るディフェンディング・チャンピオンが、2年連続でティファニー製のトロフィーを“奪いに”くる。

※データはすべて第27節終了時点のものです。
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