柔道無差別級に挑んだ高藤と橋本 悔しい初戦敗退も、生まれた新たな目標

長谷川亮

自身を見つめ直すきっかけに

高藤は上四方固めで抑え込まれて一本負け。重量級の壁は高かった 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 続いて今大会最軽量となる高藤が2回戦に登場し、石内裕貴(九州/旭化成)と対戦した。160センチ、60キロの高藤(※この日は67キロぐらいと試合後に本人談)に対し石内は183センチ、100キロと、身長差は大人と子ども、体重差に至ってはそれ以上のものがある。

 打撃のような速さで手を伸ばし組み手争いを展開した高藤だが、石内は警戒してこれを切る。倒れ込み、足を使って石内を転倒させにかかるも、これは引き込みと見なされ審判から指導を受け、調子が狂う。

 場内のキッズ柔道家の声援を受け懐に入らんとした高藤。しかし、石内は前手である右手を伸ばしてこれを許さない。高藤も組み手が不十分なため技につなげることができない。

 攻めあぐねた高藤は石内の投げに巻き込まれて寝技に持ち込まる。そこから上四方固めで抑え込まれて万事休す(3分03秒)。橋本同様、初戦突破はならなかった。

「夢の舞台で戦えたけど、負けたので悔しいのが一番」

 高藤も橋本と同じく負けを仕方なしとはとらえず悔しさを口にする。

「(橋本)壮市先輩に『ここまで来たら“自分が一番強い”って勘違いしよう』と言われて、その言葉に勇気づけられたんですけど、勘違いのまま終わってしまいました(苦笑)」

 だが、そうした思いがあればこそ、階級の枠を超えた挑戦へ向かえたのも事実。「地力がついたと思うので、60キロで戦っていく上でプラスになったと思う」と高藤が言うように、無差別での戦いに挑むことで橋本、高藤ともよりパワーアップを図り、重量級対策に普段とは異なる技、違う戦略を持って臨み、自身を広げ、さらに高める契機とした。世界王者としてめっきり機会の少なくなった敗戦も、自身を見つめ、再開発するきっかけとなるだろう。

「一つ一つ勝っていって、来年も(全日本選手権に)たどり着けるよう頑張りたい」(橋本)

「五輪で金メダルを獲って、重量級とやり合える力と技を作って再挑戦したい」(高藤)

 世界選手権、そして五輪とはまた別の、新たな目標が2人の中に生まれていた。

原沢が王子谷の3連覇を阻止

優勝を飾ったのは原沢久喜(写真)。王子谷剛志の3連覇を阻み、3年ぶりに頂点に立った 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 また、混とんとする優勝争いは、4度目の優勝と3連覇を懸ける王子谷と原沢久喜(東京/日本中央競馬会)が決勝に進出。王子谷は小川を、原沢は2012年の全日本王者・加藤博剛(関東/千葉県警察)を準決勝でそれぞれ破っての対戦となった。

 2月のグランドスラム・デュッセルドルフ決勝では両者反則負けという不名誉な結果に終わった2人だが、今回は王子谷が大外刈り、原沢が内股を仕掛け合い、延長戦に突入。

 しかし王子谷はここから消耗を隠せなくなり、掛け逃げで指導を受け、待てが掛かった後も疲労でなかなか開始線に戻れない。組んでも頭が下がり、原沢に組みつぶされてしまうようになり、王子谷は指導の累積で反則負け(9分16秒)。原沢が王子谷の3連覇を阻み、2015年以来3年ぶりとなる優勝を成し遂げた。

 原沢はこの大会を最後に、所属していた日本中央競馬会を退職。優勝により9月の世界選手権の代表に選出を受け、退路を断つ形で東京五輪出場を目指す。

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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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