最重量級トップに食い込んだ小川雄勢 「小川直也の息子」から日本柔道の新星へ

布施鋼治

死闘制した小川、苦しんだ2017年

金メダルを手にしてポーズを取る小川雄勢(右)と父・直也 【赤坂直人/スポーツナビ】

 試合後、小川直也は安堵の表情を浮かべながら開口一番こんな感想を漏らした。

「手に汗を握りましたね」

 その言葉には素直にうなずかざるを得なかった。「GRAND SLAM TOKYO2017」2日目(12月3日・東京体育館)。100キロ超級決勝戦は、小川雄勢(明治大)とクルパレク(チェコ)の間で争われ、のべ14分1秒に渡る粘闘となったからだ。

 雄勢は、かつて全日本選手権で通算7度も優勝し、バルセロナ五輪では銀メダルを獲得した小川直也の長男だ。

 身長190センチ、体重135キロと父に勝るとも劣らぬ恵まれた体格を武器に、リオデジャネイロ五輪後は日本の重量級の新星としての活躍が期待されていた。

 しかし、なかなか結果を残せない。昨年11月のグランプリ青島では決勝でロシアの選手を下してIJFワールド柔道ツアー初優勝を飾り、今年3月の全日本選手権の東京予選も制したが、その後はサッパリだった。

父・直也が感じ取った変化

父と同じく左組みで奥襟を持つ小川雄勢(右) 【赤坂直人/スポーツナビ】

 誰もが父・直也と息子・雄勢を重ね合わせる。同じ超重量級で、風貌も似ている。さらに相手の奥襟をつかんで頭を下げさせ、スタミナを削ってから勝負に出るスタイルも同じなのだから無理もない。

 雄勢にとっては辛抱しなければならない時間が長く続いた。父も黙って耐えた。

「勝ったら称賛されるし、負けたら当たりが強くなる。やり通すしかなかった」

 再び上昇気流に乗るきっかけとなったのは、11月の講道館杯だった。尊敬する大学の先輩・上川大樹を大内刈りで破って初優勝を飾ったのだ。父は、今年の9月あたりから心身ともに少しずつ変化があったと感じている。

「講道館杯は頑張れば手が届く。(昨年は3回戦まで進み)全く手が届かない位置にいるわけではなかった。今年の講道館杯で、ああいう勝ち方をして『大きな自信』がついたんだろうね」

 今大会の準決勝では再び上川と当たった。上川の投げをすかすや、そのまま上四方固めに持ち込んで一本勝ちを収め、決勝進出の切符を手にした。

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著者プロフィール

1963年7月25日、札幌市出身。得意分野は格闘技。中でもアマチュアレスリング、ムエタイ(キックボクシング)、MMAへの造詣が深い。取材対象に対してはヒット・アンド・アウェイを繰り返す手法で、学生時代から執筆活動を続けている。Numberでは'90年代半ばからSCORE CARDを連載中。2008年7月に上梓した「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他の著書に「東京12チャンネル運動部の情熱」(集英社)、「格闘技絶対王者列伝」(宝島社)などがある。

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