米国で陥った不安を払拭した白井健三 個人総合代表獲得へ自信となるW杯優勝

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国際大会で自身初となる個人総合優勝を飾った白井健三(左)。右は女子優勝の村上茉愛 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 体操のワールドカップ(W杯)シリーズ最終戦となる東京大会が14日、東京体育館で開催され、男子個人総合では白井健三(日本体育大)が86.064点で優勝。この結果、国別ポイントランキングでも、日本がランキング1位となり初優勝を飾った。

 個人総合で争うW杯シリーズは、男女8カ国の代表選手が1名ずつ集まり、米国(3月3日)、ドイツ(3月17日)、英国(3月21日)、東京の4大会で行われた。2016年からは、その個人順位によってポイントが与えられ、各国の順位が決まるシステムになった。日本はここまでの3大会を終えて、米国大会で白井が6位40点、ドイツ大会で田中佑典(コナミ)が3位50点、英国大会で野々村笙吾(セントラルスポーツ)が優勝60点を獲得。この時点で米国と並んで首位タイに立っていたが、今回の白井の優勝により、W杯シリーズ3度目にして初めて世界一の座を射止め、“体操ニッポン”の地力を見せた。

米国大会で犯した予想外のミス

W杯初戦の米国大会で失敗した鉄棒。今大会では、そのときを大きく上回る得点を獲得 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 国際大会での個人総合優勝という栄冠を手に入れた白井だったが、その内容については大満足というわけではなかった。「昨年とあん馬以外の構成を変えていない割には、もう少し完璧を求めても良かったのかなと反省が残る演技が多かったです」と自身に厳しい評価を下す。

 大会2日前に行われた公開練習後の記者会見で、白井は今大会の位置付けを「全日本(個人総合選手権)とNHK杯と同じ会場でできるということで、その2大会に向けて課題を見つけることがすごく大事かなと思います。完璧で終われたらそれが一番ですが、ここでの反省を逆に作りたいです」と、“失敗”や“課題”という部分を強調していた。

 その理由は、6位に終わったW杯初戦の米国大会にあった。シーズン初戦となる試合で、白井は「自分を見失う感じ」と表現するほどの大過失を犯した。最初のゆかでは全体1位の演技を披露するが、2種目めとなったあん馬で2度の落下。また最終種目の鉄棒でもアドラー(前方浮腰回転振り出し)の際に落下してしまうというらしくないミスをした。「ある程度練習で失敗しやすい箇所やここは注意しなきゃいけないという箇所はあったのですが、(米国でのミスの箇所が)かなり予想外の失敗でした。『こんな失敗がまだ試合で出るのか……』と思わされました」と話す。

 それ以降、調子が良くても頭の片隅に「また同じ失敗をしてしまうかも」という不安があった。そのため今大会はどこか失敗を怖がり、自分らしい度胸の据わった演技ができなかったというのが本人の評価だった。

試合を重ねることでいいイメージを作っていく

得意のゆかは15.200点と他を圧倒して1位となった 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 それでも実際の演技では、得意のゆかで15.200点、跳馬も14.966点と他を圧倒して種目別1位を獲得。またあん馬でも13.533点で1位に立ち、ほかの3種目でもすべて3位以内につけた。Eスコアだけを見ても、すべて8点台(跳馬は9点台)に乗せ、米国大会でミスが出たあん馬や鉄棒の得点は大きく上回り、白井らしい“美しい体操”を演じることができた。

「米国の時の自分の姿をいつか払拭(ふっしょく)しなきゃいけないと思って臨んだのがこの試合でした。弱い気持ちが襲ってくる中で、今日は“大過失”を出さなかったことで、逆境を跳ね除けた自分は、この1試合で強くなったかなと思います」

“不安”という敵を乗り越えた白井だが、この先には2週間後の4月27日から始まる全日本個人総合選手権、そして1カ月後の5月19日から始まるNHK杯という大一番が待っている。

 10月下旬の世界選手権(カタール・ドーハ)に向けた国内の熾烈な代表争いが始まるが、「今回の結果は、失敗しないいつも通りのリズム、演技ができたと思います。ここからは失敗しないのが当たり前で、さらにその上でこだわっていくところを、あと2週間で突き詰めていきたい」と力強く語り、個人総合で日本代表の座を射止めたい意思を示した。

 白井は昨年の世界選手権で個人総合銅メダルを獲得し、“オールラウンダー”としての実力を伸ばしてきた。「昨年の年末からひとつ冬を過ごして相当自信をつけましたが、米国で崩れたのが誤算でした。それで『ひと冬分、出遅れたな』と思った部分もありましたが、たくさん試合を重ねていけばいい動きも出てくると思うし、全日本、NHK、そして東インカレ(東日本学生グループ選手権、4月)と調整し、試合の感覚を取り戻したい。冬場の練習を引きずらず、いいイメージを持ってやっていきたいです」。白井はそう語りながら、さらなる進化と巻き返しを誓った。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)
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